2番目の姉から、メールが来た。
----------------------- Original Message -----------------------
From: むっくん
To: ひろき
Subject: まだまだだけど
----
破水反応があったため、念のため入院しました。陣痛来ないので、陣痛待ち。
本当の破水かわからないので、まだまだ日数かかりそうです。
実家には連絡済みです。産まれたら●●(だんな)かママから報告してもらいます。
まだ痛くないのでのんびり寝てます。
-------------------------------------
そう、姉は妊娠中で、もうすぐ産まれそうなのである。
僕には二人の姉がおり、長女は13歳年上で、あだ名がむっくんの次女は
10歳年上である。
長女は才気煥発で人生は波乱万丈、自己主張が強くゴーイングマイウェイ
なのに対し、むっくんはのんびりゆるく、楽天的。感受性が強くてアーティスト
タイプだ。
僕が小さい頃に長女は一人暮らし、結婚、と余り一緒に住んでは来なかったが、
むっくんとは長らく一つ屋根の下で暮らしていた。
ほとんど喧嘩している思い出しかなく、僕の女性への苦手意識(特に年上)は
彼女によって醸成されたのではないかと思うくらいだ。
ただ同時にむっくんからは色々な繊細な贈り物ももらっていた気がする。
例えば彼女の愛蔵している少女マンガやオトナ漫画の数々(『綿の国星』や
『アドルフに告ぐ』やらetc,etc)をいっぱい読ませてくれた。
そのせいで小学校の頃から「努力と友情と勝利」
の週刊少年ジャンプワールドを十分に愛せず、孤独な思いをしたものだった。
人生は努力しても降りかかる不条理があり、友情は時に恋に裏切られ、
勝利も敗北もない荒野にも、愛と哀しみがある、と。
そういえば彼女は僕がとっても小さい頃は、よく色んな作り話を
してくれたものだった。
夜遅くまで起きたがった僕に対し、変てこな話をして寝かせようとした。
「早く寝ないと、ジャッカルンが迎えに来るわよ。
ジャッカルンはステッキをついて、
山高帽をかぶっていて、くくく、って笑うのよ。
ジャッカルンはドアをコンコンコンって叩いて、
早く寝ない子は山高帽に飲み込まれちゃうのよ
ほら、耳を澄ましてごらん。ジャッカルンのステッキを
つく音が聞こえるでしょう?」
真剣な顔で声を潜めてそんな話をする姉の顔を見ていると、
何となくそういう奴も世の中にはいるのかも知れない、と
思って怖くなり、布団をおでこまでかぶるようにした。
ジャッカルンはとうとう迎えに来なかったが、姉には優しい
男の人が迎えに来て、家から出て行った。
それからたまにあっても喧嘩のきっかけもなく、いつのまにか
二人ともどうやって喧嘩するのか分からなくなって、
いつのまにかお互い良い大人になっていってしまった。
そうしてむっくんは今入院していて、僕は色んな数字とか従業員の
生活とか社会の変革とかで泥だらけになっている。
そう、むっくんの子どもが生まれたら、一緒に遊んだり、喧嘩もしてやろう。
そしてもしも彼がいつまでも寝なかったら、声を潜めてまじめな
顔で、話をしてあげよう。
「ジャッカルンが迎えに来るぞ。コンコンコン・・・」
__________________________
当記事は、NPO法人フローレンス 代表理事駒崎弘樹の
個人的な著述です。
病児保育サービスに興味がある方は、フローレンスの
サイトのお問い合わせフォームにご連絡下さい。
フローレンスの病児保育(病後児保育)の対象エリアは
現在、東京都杉並区・新宿区・渋谷区・目黒区・品川区・港区・千代田区・
文京区・中央区・江東区・墨田区・江戸川区となっており、
法人向けサービスも行っています。
いつもご支援頂き、誠にありがとうございます。
これからもどうぞ宜しくお願い致します。
________________________