2012年07月31日

書評:世界を変える偉大なNPOの条件


日本のNPO経営者のうち半分でも本書を読んでくれれば、少なくとも日本のNPOセクターのパフォーマンスは倍加するだろう。断言できる。



なぜか、というのは本書の提唱する6つの原則を読んでみてもらえたら、と思うのだが、本エントリーではそのうちの1つだけを紹介したい。

【アドボカシーとサービスの両立】
通常NPOはサービスを提供する。貧困層に無料学習室を。障がい児に保育を。森林に適切な間伐を。それで対価を得たり、あるいは得られない場合は寄付や補助金によって、サービスを成立させる。

こうしたサービスを拡充させて、組織的に拡大していくのは「成長」である。しかし偉大なNPOはこの単線的成長だけではなく、アドボカシーというてこを活用するのだ。

アドボカシー(advocacy)は日本では馴染みが薄いが、「政策提言」と訳されることが多い。政策提言というと政治家や官僚にのみベクトルが向いている印象を与えるが、世論喚起の段階をも含めているので、方向性は大衆にも向いている。

例えばアメリカの非営利金融NPOであるセルフヘルプ。彼らは金融の恩恵を受けづらい女性や少数民族、農村部への貸付サービスを行なっていた。しかし1988年、スクールバスの運転手をしていたノースカロライナ州のアフリカ系アメリカ人の相談に乗った時に、驚くべきことに気づいた。男性の4万ドルの住宅ローンが金利14%という法外なものだったのだ。

彼はこう訴えていた。「俺は家を建てるのをこの手で手伝った。9歳の娘にとっちゃ、死んだ母親の思い出はこの家にしか無い。それを失うわけにはいかないんだよ。」

この一件から、詐欺まがいの融資業者によって、ノースカロライナ州の住民が毎年1万人も住む家を奪われていることをセルフヘルプスタッフたちは知った。そこで彼らはNPOや信用組合、教会等と連合体をつくり、地元紙に売り込んだり、主力銀行を説得するなど、アドボカシーを始めた。

彼らの努力は実を結び、1999年にノースカロライナにおいて「略奪的貸付禁止法」が成立する。その後22州へと略奪的貸付禁止法は広がっていき、全米で最も生活が安定しない市民たちの資産数十億ドルの保護に成功したのだった。

セルフヘルプはこのように、自らの金融弱者向けサービス「と」アドボカシーを組み合わせ、画期的社会変革を行なっている。

こう書くと不思議に思う人もいるかもしれない。「アドボカシーが影響力があるのだったら、アドボカシーだけやれば良いじゃないか。」さにあらず。

実は、アドボカシーにおいて、自らサービスを行なっているといことは大きなアドバンテージになるのだ。それだけ、現場に近いので、彼らが提案する政策も「現場に落とし込まれた時にどう機能するか」に配慮されたものになっている。そのため政策的有効性が高い。
更には現場でサービスをやっていることで、同業NPOのネットワークを創りやすいため、アドボカシーに必要な政治力を確保しやすくなるのだ。

非常にアメリカ的だ、と感じる方もいらっしゃるかも知れないが、原理は日本も同じだ。我々フローレンスの事例を紹介しよう。

フローレンスは待機児童問題を解決するために、おうち保育園という小規模な保育サービスを行なっている。しかし、これを制度化するためにアドボカシーを行った。2009年当時、保育園は定員数が20名以上でなければ保育園として認められなかった。けれども、都市部に集中する待機児童の解消では、旧来型の大型園では十分な供給量をカバーするのは不可能だった。

そこで、厚労省へのアドボカシーにより試験的事業を許可してもらい、定員9名で空き家を使ったモデル(おうち保育園)を江東区にオープンした。そしてこのモデルがワークすることを内閣府や主要政治家に紹介することで、彼らが「小規模保育サービス」という新しいカテゴリーをつくることを後押ししたのだった。
結果、今国会の三党合意において、これまで約70年間変わらなかった保育制度に風穴が空き、小規模保育は国策化されていった。

これは私達が実際に現場でモデルをつくり、サービスを行なっていたことが大きな要因であった。政策に関するアイディアというものは、掃いて捨てるほどある。しかしそれがワークするかどうか、の問いに答えられなければ制度化は行えないのが、政策立案者の立場である。ゆえに、「回っている現場(サービス)」が強いアドボカシーの力を発揮するのだ。

「自らモデルを創り、それを政策にさせる」

非常にシンプルな原則だ。しかし、だからこそ非常に強力な原則でもある。
このてこを使えば「社会を変える」というのは、そう難しいものではないのだ。
でもどうやってアドボカシーのもとになるネットワークを創ったりするのか、という声が聞こえてきそうだ。それは本書に書いてあるので、ご一読を。

「NPOの戦い方」を本書ほど鮮やかに描き出し、更には実務に耐えうるレベルで説明している本はあまり無い。日本中のNPO経営者に読んでもらいたい。さらに愚直に実践しよう。そうすれば10年後、NPOセクターはもはや10年前のそれとは驚くほど変わっているだろう。

だとしたら、その時には、世界一高速で高齢化する課題先進国である日本が、世界一の「課題『解決』先進国」になっていることだろう。我々の手がそうした偉大さに届くことが、不可能でも何でも無いのだということを、本書はきっと信じさせてくれよう。





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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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いつもご支援頂き、誠にありがとうございます。
これからもどうぞ宜しくお願い致します。

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posted by 駒崎弘樹 at 19:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | 宣伝・イベント告知 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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