2012年01月27日

あるべき病児保育政策とは


最近行政の方に相談されることが多いので、まとめておきます。




【従来の政策は「施設を増やそう」】
これまでは病児保育の施設を増やそう、という政策を何十年続けてきましたが、残念ながらこの政策は政策的効果が低いです。理由は
@需要を満たす供給量に必要な小児科医がいない
A1施設定員4人と需要に対して十分ではない
B半径1キロ程度の住民しか使えない
が主な理由。
結果として現在病児・病後児保育施設は全国で1000にも満たない数しかなく、保育園数約2万6000と比べてみても、非常に脆弱な社会的インフラです。

【今後の中心は訪問型】
施設型に比較して、手前味噌ですがフローレンスのような訪問型は、定員数や立地等に関係しないため、広範囲にサービス提供が可能です。保育スタッフによる預かり前の受診の徹底や、当社のように医師による往診を組み合わせれば、安全性も向上します。

【訪問型を増やすためにはバウチャー】
こう言うと、すぐに厚労省は「では自治体が事業者を選定して委託しよう」という「事業者囲い込み」戦略を取ろうとするのですが、明確に間違いです。
理由は
@一度行政から委託を受けると、成果に関係なく委託を受け続けられ、サービス水準が低下する
A補助金委託業者が行政価格(民間ではありえない値段)になるので、結果として民間事業の参入を阻む
B成果に関係なく補助がもらえるので、利用者数をあげようとするインセンティブが働かない

となります。そこで、病児保育バウチャーを発行し、「利用者を」補助します。「事業者を」補助するのではなく。

病児保育バウチャーの利点は以下。
@特定の事業者を補助するわけでないので、競争が発生する
A利用者の利用意向が高まるので、民間事業者の参入を誘発できる
Bサービス利用時しか使えないので、施設のような維持コストが掛からない

実例としては東京都渋谷区の病児保育利用料金助成制度があります。バウチャーといっても実際のクーポン券が発行されるわけではなく、利用者が役所に申請すれば利用分だけ振り込まれる仕組みです。

【バウチャー政策の注意点】
しかし病児保育バウチャーも万能ではありません。以下の地域では活用しにくいか、効果が薄れます。
@病児保育のニーズがそもそも薄い農山漁村
Aベビーシッター会社や子育て支援NPOが一切存在しない地方都市

@は言わずもがなですが、忘れられがちです。病児保育ニーズは母親が企業等に賃金労働に出かけていく生活スタイルが一般的な土地、つまり都市において発生しやすいものです。ゆえに、全国一律で作る必要はありません。
Aはよくニーズ調査を行い、一定量のニーズがある場合においては、病児保育を整えていくべきです。その場合は自前でやらずに、他都市からベビーシッター会社やNPOを誘致してきて、一定のインセンティブ(初期展開に必要な費用)をつけて、後は自前で運営してもらう、というやり方が好ましいでしょう。

また、バウチャー政策が以下のようなものになるのも、効果を減殺します
@行政に提出する資料が煩雑になりすぎ、利用者が利用を嫌がる
Aバウチャーによって割り引かれる額が少なすぎ、利用者が増えない
 (1時間最低800円程度は割り引くべきです)
B行政が「正しい事業者」を「選別できる」と思い込んで、何らか選定しようとする。
 (行政よりも利用者のほうが厳しく事業者を選定します。)

【まとめ】
僕が厚労大臣、もしくは地方自治体の首長だったら、以下の政策パッケージにします
@既存の病児保育施設は存続(ただし利用率25%を切っていたら廃止)
A病児保育バウチャーを発行
B病児保育施設と訪問型病児保育事業者が連携できるよう、対話の場をセット
C悪質事業者等がいた場合に備え、苦情受付窓口を設置。一定の基準に従って勧告・業務改善要請を行い、改善が見られなかった場合はバウチャー対象から外す
Dバウチャー利用率等は全て情報開示し、利用者が選定しやすい環境をつくる

以上、病児保育政策についてでした。
政治家、行政関係者等の方でご不明点がある方は、個別にご連絡頂けましたらお答えしたいと思います。


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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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いつもご支援頂き、誠にありがとうございます。
これからもどうぞ宜しくお願い致します。

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posted by 駒崎弘樹 at 21:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | 宣伝・イベント告知 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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