2011年05月29日

「経営者が教える『本当は他社には教えたくない、ワークライフバランスで得する方法』」


労災保険をナビゲートする季刊専門誌「ろうさい」に掲載されたエッセイを転載します。


【私はこういう人間です】

私は現在従業員90名程の会社(法人格はNPO法人です)の経営者の駒崎と言います。今日は(本当は他社には教えたくないのですが)、ワークライフバランスで会社が得する技をお伝えしたいと思います。

「ワークライフバランス」とか言うと、働きたくない社員が横文字使って不平不満をぶちまける技だと思われている社長さん達も多いと思います。また、草食系個人主義の若者が言っている戯言だとお感じの方もひょっとしたらいようかと思います。しかしその時点で非常にもったいないことをしています。

「ワークライフバランス」は働き方の「カイゼン」なんです。トヨタをはじめとする製造業がなぜあれだけ世界を席巻したのか、というと、一つは徹底した「カイゼン」を行って、業務の「ムリ・ムラ・ムダ」を排除したからです。この「ムリ・ムラ・ムダ」、工場の中だけにあるのじゃないんですよね。職場の中に、そして我々のワークスタイルの中に根深く巣食っているのです。そこを抜本的に「カイゼン」していくのがこのワークライフバランスなのです。

ゴタクはこれくらいにして、弊社がこのワークライフバランスの実現のための「カイゼン」を行って何を「得した」のか、並べてみましょう。

●残業代削減と利益のアップ

実は私、御多分にもれずワーカホリックで、一日16時間労働は当たり前の人間でした。社長がそんなものなので、従業員も付き合って長時間労働は当たり前、という職場だったわけです。ですので残業代はすごいことになっていまして、とはいえ労基署に捕まるのも嫌なので、まあ必要経費、ということで全額払っていたわけです。

それがこの「カイゼン」を行ったところ、残業がものすごい勢いで減りました。何と現在、1人当たり残業時間数は、1日平均15分。それに伴って残業代がえらい削減されまして、それがそのまま利益に乗っかりました。

100万円の利益を出そうと思うと、利益率10%だと、1000万円稼がなくてはいけません。けれども、コスト削減であれば、100万円削減したらそのまま利益が100万円増えるわけですね。経営者にとって、利益が神様ですから、これは何よりありがたかったです。

ちなみに、「うちの社員はそんなに残業はしていないかな」という社長、ちょっと計算してみて下さい。8時間勤務の社員全員が、1日1時間だけ残業したとしましょう。人件費はどれだけ伸びますか?1/(8+1)=0.11=11%です。
全コストにおける人件費率が40%の会社ですと、40%×11%で、コストを4.4%押し上げます。このコストがなくなると、(売上と費用が一緒=トントンだったとしたら)利益率を4.4%改善させます。御社の売上利益率と比べてみると如何でしょうか?結構な影響ではありませんか?

●変わらぬ業績、むしろ伸びる

こういうと、「コストは削減されるけど、売り上げは落ちるでしょう?」とよく聞かれますが、それが全然。昨対比40%で伸びています。

「働く時間が減ると、稼ぐ時間も減るから、売り上げが落ちる」と素朴に考えていらっしゃる経営者の方は、お人が良い。社員は(自分も含めて)そんなに機械のような真面目な働き方はしていません。5時間で10のことをやれ、と言われても、3時間で10のことをやれ、と言われても、時間内でやれるやり方を考え、やるわけです。程度問題ですが、時間があればあっただけ、中身がスカスカになります。夏休みの宿題と一緒です。夏休みが2カ月あろうと、1か月でも、どうせやるのは8月31日なのです。

しかも、1人の長時間労働に支えられた売上は、もろい。その人間が辞めたりしてしまうと、売り上げが落ちてしまう。そうではなく、個人に左右されない「仕組み」によって売り上げをあげていく必要があるのです。ワークライフバランスの取り組みによって、個人の頑張りや長時間労働に左右されない仕組みの構築に成功しました。

●採用力と定着率の向上

そして更によかったのは、ザ中小企業でしかない弊社に、喜んで応募してくれる優秀な人たちが増えた、ということです。普通、従業員90人程度の中小は、大企業と比べて採用力があるわけもありません。ですので、大企業が採用しないような方を中心に採用していくわけですね。

しかし弊社は「どうやらあそこは働きやすいらしい」というブランドができてくれたお陰で、採用広告費を一円も使わずに、本部のスタッフを雇うことができています。全て、ブログか自社ウェブサイトです。しかも、誰もが知っている大企業を辞めて、給料が半分くらいになるのに転職してきてくれるのです。あり得ない、と当の経営者自身がびっくりしました。

あり得ないことは続きます。先日事務員を募集したら、MBA(経営学修士号)を持つ女性が来ました。経理のパートの方を募集したら、公認会計士の資格を持った女性が応募してきてくれました。また、女性だけでなく、大企業から転職してきてくれる既婚男性も相次ぎました。

どうやら世の中には「優秀だけど、普通の会社では無意味な時間の制約等があって働けない」という女性がうじゃうじゃいるということ。そして男性でも「今の職場だとまともな家庭生活が送れないので、年収が下がっても家庭生活と仕事を両立できる環境に身を置きたい」と言う方が相当数いるということを知りました。

更には長時間労働職場時代には、定期的に人が辞めていっていましたが、今は随分多くの人が残り続けて働いてくれています。人が辞めるとその度に面接したり何だりと労力がかかるのですが、そうしたことがなくなって省エネを実現できました。

●従業員のモチベーションが上がる

長時間労働時代の私達は常に全力疾走で、とにかく「真っ白になるまで働け」という明日のジョー的な職場でした。そうなると皆心身ともに疲弊していき、職場のモチベーションも常に低い状態になります。モチベーションの低い社員を見てイライラし、「お前ら、根性が足りない!真っ白になるまで働け!」と檄を飛ばし、更に疲弊する、という悪循環の繰り返しでした。

今はほとんど残業もなくなり、社員はうちに帰って家族と団らんしたり、友人達との時間を持ったり、勉強したりして、心身ともに充電するようになりました。自然と雰囲気も良くなり、疲れでモチベーションが抑圧されることもなくなりました。
やる気がない社員が揃っていたわけではなく、職場環境が彼らのやる気を殺いでいただけなのでした。

●勲章を頂く

こうしたことが評価されて、東京都から「東京都ワークライフバランス認定企業」というお墨付きを頂きました。周りは立派な会社ばかりのところ、自分たちみたいな小さな団体が取って良いものか、と思いましたが、まあもらえるものはもらっておこうと。

そうすると、東京都が勝手に「良い会社だ」と宣伝してくれるので、それを真に受けたメディアから取材を頂いたり、それを見た人が求人で来てくれたり、大変嬉しいことが相次ぎました。

そこまでたいしたことはしていなかったのですが、まだやっている企業が少ないので、弊社のようなところでも差別化できたわけです。

●自分も休め、本当に重要なことに時間を割ける

更には、31歳の自分にもようやく第一子が生まれまして、初めての子は可愛いもので、自分も世に言う「育休」を取ってみようかな、と思い立ったわけです。2ヶ月くらい取りたいな、と。ただ、自分がいなくて、2か月も会社が回るかな、と当然不安になりました。自分のいない間にキャッシュアウトとかしたら、倒産です。自分がいなくちゃ回るわけないだろう、と。私も普通の中小企業の社長さんと同様に、そう思ったわけです。

ただ、ワークライフバランス実現のための「カイゼン」をしていたので、ひょっとしたら自分がいなくても何とかなるかもしれない、と思って、思い切って育休を取ってみました。一応1日2時間と決めて、仕事のメールを見たり、ビデオ会議をしたり、という保険はかけておきつつ。

すると、実際は私がいなくても、ほぼ問題なく回っていっておりまして、途中から会議もほとんど出なくなりました。2か月経営者がいなくても回ったのです。

これはカルチャーショックでした。創業者である私は、いつのまにか会社と自分を同一視して、自分がいなくちゃだめだろう、ということを当然視していたためです。むしろ、「お前がいなくても回るよ」と言われたようで、多少パニックになりました。

しかし、裏を返すと「社長がいなくても回るほどタフになった」ということの証拠だと思います。これもワークライフバランス実現のための「カイゼン」を行った結果です。多少複雑な気分ではありますが、経営者として、こんなに心強いこともありません。

自分がいなくても回る組織。そして自分は5年後、10年後の事業のために自分の時間を投資できるようになったわけです。

【何をしたのか?】

こうした様々な「得」を2年程度で得ることができたのですが、さて具体的に何をやったのか。

施策と言っても、弊社はちっぽけな中小企業です。投資するお金なんてほとんどありません。これから御紹介することは、お金をほとんど全くかけずに行ったものです。

こうした「誰にでもできる」施策を、次号で説明していきたいと思います。乞うご期待。



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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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posted by 駒崎弘樹 at 20:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | お仕事で書いた文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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