2010年11月20日

【大手小町】休むことで得るもの


僕はこれまでの経営者人生で、一生懸命働いてきた。しかし、懸命に働くということが、時として自らを罠にかけることに繋がる、ということをこの育休は教えてくれている。


僕は経営者として、懸命に働いてきた。それは自らが立てた年間の計画を遂行するために、特に社員を叱咤し、時に激励し、時に調整を行い、時に自ら陣頭に立って営業をする。今年の目標が達成できたら、来年の目標を立て、その連続が、組織の健全な成長をもたらす。そんな風に思いながら、目の前に次々と投げ込まれるボールを、千本ノックのように打ち返す日々だった。

しかしその千本ノックをいったんベンチに入って、子どもを抱きながら見つめるうちに、ふと自分の中から普段抱かない感情が湧きあがった。

「この子が大きくなった時に、僕はどんな仕事をしているのかな。」

日々の切った張ったではなく、5年、10年、20年というスパンで、僕はどうやって僕の仕事を完成させていくのだろうか、と考えた。

こどもをベビーラックに乗せ、最近めっきり使わなくなったノートの白地に、円を描いた。ここが今自分のいる場所。そして10年後、どこにどんな風に行くのだろう。いや、行きたいのだろうか。

ゆっくりと流れる時間の中、深く深く自分の意識の海に潜っていった。自分の業務を離れ、仕事を離れ、死んでいく一個の生き物として、死ぬ前にどのような足跡をこの世界に残したいのかな、と自らに問う。

暗い静かな意識の底。そっと意識の底に転がっている貝殻を開ける。すると、その中には小さな、しかし確かに光る小さな真珠のような「思い」があった。

娘が泣き出した。僕ははっと我に返り、意識の海面に顔を出した。
娘を抱っこしてあやしながら、今後10年で自分がやらなくてはいけない何か、いや、やりたいと無意識のうちに思っている何か、に確かに気づいていた。

忙しくしていた中で、日々の業務と懸命に闘っていたがゆえに、考えられていなかったものに、今たどり着いたのだ。
置き忘れていた。しかし仕事と距離を取ることで、改めて自分にとって仕事とは何なのか、を気づくことができた。
自分の今立っている地面が、未来のどこに繋がっているか、を体感し、心が躍った。

娘が笑ったので、僕は笑い返した。
君が教えてくれたのかもね、と言いながら。

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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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いつもご支援頂き、誠にありがとうございます。
これからもどうぞ宜しくお願い致します。

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posted by 駒崎弘樹 at 19:37 | Comment(3) | TrackBack(0) | お仕事で書いた文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
どれを読んでも、いいですね。
素の駒崎さんが目に見えるようです。

女性にとって、夢の病児保育、それを男性が、しかも1から開拓してやっているということに、感激しています。本も読んで感動しました。
遠くから、応援しています!
頑張って下さい。
ツイートも時々読んでいます。
Posted by 西村 かおる at 2010年11月20日 23:32
>西村さん

コメントありがとうございました!
病児保育を当たり前の社会ンインフラにすべく、がんばりますね!!
これからも宜しくお願いいたしますー。
Posted by 駒崎弘樹 at 2010年11月21日 12:34
病児保育を当たり前の社会インフラにする前には、日本の会社の働き方を変えなければならないですね。駒崎さんはどのように行動されていますか。よい模範はどの国でしょうか。
Posted by TINA at 2010年11月23日 16:47
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