2010年10月07日

【書評】ダメだしはもう良い。希望を語れ。『「カタリバ」という授業』


英治出版より献本御礼。しかし、最初は正直読むのが億劫であった。

「カタリバ」という授業――社会起業家と学生が生み出す “つながりづくり”の場としくみ
「カタリバ」という授業――社会起業家と学生が生み出す “つながりづくり”の場としくみ上阪 徹

おすすめ平均5つ星のうち4.0
5つ星のうち4.0ナナメの関係


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なぜなら本書の主人公の一人、NPOカタリバ代表今村久美は大学からの友人で、本なぞ読まずとも分かってるわい、という気持ちが僕の心の大半を占めていたから。
本には書いてないだろう、あんな恥ずかしいところも、こんなダメなところも、よく知っているさ、と。

ゆえに子育てに忙しい自分は、せっかく送られてきたこの本を机の上に放置し、表紙だけで読んだ気になっていた。
しかしミルクあげの合間にふとパラパラとめくっていたら、そのまま目が離せなくなり、結局最後まで読み切ってしまった。
最後には恥ずかしながら目から汗を出していたことを告白しよう。

本書でも書かれているように、
日本の子どもたちの「希望難民」ぶりは、実はすごい。

高校生のうち2人に1人が
「自分は人並みの能力はない」と言い、
5人に3人が「自分はダメな人間だ」と思っていて、
5人に3人が「自分が参加しても社会は変わらない」と言う。

先進国で最も低い、子どもたちの自己肯定感。これが世界第三位の経済大国までのぼりつめた我が国の「山頂にあった風景」だ。

NPOカタリバはこの問題に挑む。大学生達を高校に送り込み、高校生達の話を聴き、語り、希望を語ることを後押しする。自分を承認してもくれない先生や親達のような「ダルい大人」はファッキューな高校生たちが、自分と年の近い、初めてあったにも関わらず自分の話を聴き(聞きではない、聴きだ)、誉めてくれ、未来に拍手をしてくれる。

こうした取り組みが多くの高校に広がり、たくさんの高校生の消えかけた心のエンジンに着火しているのだ。

更にその動機付けの火は大学というフィールドにも広がる。カタリバを大学生向けにアレンジして提供したところ、毎年中退者が30%に至らんとしていた嘉悦大学において中退者を90%近く激減させる、という快挙も成し遂げている。
中退者=売上の減少である大学にとっては福音だ。そして中退が非正規雇用とワーキングプアの温床であることは、日本中退研究所も警鐘を鳴らす通り。ならば大学生達にとっても大いなる希望となる。

カタリバのプログラムが、なぜ青少年の心に火をつけるのか。キーワードは「ナナメの関係」だ。

親や先生のような縦の関係でもなく、友達のような横の関係でもない。ちょっと年上で、直接の利害関係からは外れた人々の力。昔はたくさんいたのだろう。近所のおっさんに怒られた。おせっかいなおばちゃんに誉められた。隣のお姉さんに恋して、向かいの勉蔵さんみたいなお兄さんに勉強を教えてもらって。

けれど地域コミュニティの喪失と共に、子どもたちはそうした関係を失った。家と学校の往復。家でも学校でも、何でするか分からない勉強をとにかくしろと言われ、友達とはもめないようにとにかく同調。空気を読み合い同調圧力の水槽の中に生き、そこから外れるようなら、空気読めない痛いやつ。素が出せるのはむしろ塾か携帯SNSの世界。腹割って話せるのはネットの向こうのハンドル名IDくんだ。

そんな嘘くさい日常を生きる子どもたちの環境に、彼らは「ナナメの関係」を新たに持ち込むのだ。心を受け止め、肯定し、未来を描く、ナナメの関係を。

振りかえると、僕もどれだけナナメの関係に助けられてきただろうか。

千葉の中途半端な私立中高一貫校に入学した僕は、高校一年で絶望する。特進クラスとやらで、2年後の大学受験に向かって頑張れ、とケツを叩かれる。時は失われた10年の真っただ中。東大卒のエリートが電車の中で毒ガス撒いて、関係ない人達を虐殺しちゃう中、東大行く意味って何よ?と問えども先生達は答えることはない。ブルセラ・援交ブームで良い会社入ったおっさんが僕の女友達をカラオケに誘うのに必死こいて万札渡している風景見ているのに、良い会社入る意味って何さ?と問えども、理屈はいいから点取れよ、となる。

ああ俺はこのままこの中途半端な進学校で中途半端な点数を取って、とりあえず偏差値の高い学校に行って就職偏差値の高い会社に行こうと頑張るわけだな。

で、だからなんだ?

そんな話を話せる友人もクラスにはいない。代わりに返ってくる言葉は「ねえ駒崎、予備校どこにした?」だ。

そんな中、1個上の近所に住む女の子達が、僕の話をよく聞いてくれた。学校と友人には秘密でこっそり出品して読売新聞に掲載された自作の詩を、笑わないで読んでくれて、感激したと感想文を渡してくれた。初めて人に認められた気がした。顔も三枚目で運動も微妙で田舎学校ですら中途半端な成績だった自分も、何かを表現することはできるのかもしれない、と思えた。

更に、13歳も年の離れた、もはや家から出てる姉が僕の話を聞いてくれた。

「そんなに悩んでいるんだったら、一度レールから外れてみたら?あんたが思っているほど、世界は狭くないわよ。日本なんか出てみたら?」

一筋の光明を見た気がして、すぐに留学斡旋のNPOの門を叩いた。締め切り一日前に奨学金申請書を書いて提出。合格して留学が決まった。

留学生活で僕が学んだのは、英語よりも「頑張って良いんだ」ということだった。日本では学校で活躍するのは「さむい」ことだった。先生に質問してたら「必死さが痛い」ことになる。
けれどアメリカの片田舎の学校では、僕は唯一の日本人。知らないことを教えてくれる面白いやつ、ということでヒーローだった。頑張れば皆「グッジョブ」と親指を立て、成功すると拍手してくれる。会うたびに笑顔で挨拶してくれ、町を歩いていると知らない人まで手を振ってくれた。
僕は認めてもらえる喜びを知った。頑張って何かを成し遂げることが、拍手に値すること、拍手されることが幸せだと言うことを体感したのだった。

帰国後、僕の人生は変わった。留学でダブって一つ下の学年に入った僕は、クラスメートにも溶け込んだ。アメリカで培った強い自己肯定感があれば、異物扱いもへっちゃらだった。なぜなら僕は断固としてイケているから。誰が何と言おうと僕の価値は僕が決めるのだ。一つ下の学年は僕が元いた学年に比べて温和で結束力が強く、楽しい高校生活を送ることができた。

その後本当は志望していなかった大学に流れで入ってみたら、偶然にもまるであの時のアメリカみたいな環境で、狂喜した。
頑張る事が恥ずかしくない。問題意識を持っているのが普通で、「で、それに向かってアクションはしてるの?」と皆が問いあうモチベーションの高い環境。頑張っているやつにはとりあえずリスペクト。幸福で刺激的な日々を抱きしめることができた。

今思う。高校一年生の時に、承認と助言をくれたナナメの関係がなかったら、僕はどうなっていたのだろうか、と。
おそらく自己肯定感という心棒なき人格は、碇なき船と同じく、嵐に流され、「やりたいことがない」という海に投げ出されてしまっていただろう。

だから思う。「ナナメの関係」は必要だ。必要なだけでなく、生み出していかねばと思う。僕の周りで、あなたの周りで。

そして誇りに思う。ナナメの関係を日本に充満させようと挑む、友を。友の周りに集う仲間を。それを称える周囲の大人達を。

ナナメの関係に助けられた全ての人に読んでもらいたい。
「カタリバ」の軌跡と、奇跡を。

「カタリバ」という授業――社会起業家と学生が生み出す “つながりづくり”の場としくみ
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