産科医の先生が器具を持って入ってきた。
「ご主人様はちょっと出て下さいね。」と助産師さん。
しばらく部屋の外で待ち、戻ってみると痛みで唸っていた妻が、先ほどとは打って変わって嘘のように大人しい。
無痛分娩用の部分麻酔を入れたのだった。
「これで、子宮口が開くのを待ちましょう。」
先生はそう言って、出て行ったのだった。
妻は横たわり、僕はベッドの脇でその瞬間を待つことに
なったのだが、時は深夜。
どうにも眠い。
妻はすやすやと寝ている。僕は椅子に腰かけ腕を組んで寝るが、
うまく寝れない。学生時代、あんなに座りながら眠れたのに!
椅子に座りながら、上半身をベッドに投げだしてみて寝ようとするが、
どうにも腰が痛い。眠いけど、寝れない。傍にはいてあげたい。
しかし・・・、と格闘している間に、変な姿勢でうつらうつらして、
すぐに目を覚ます、ということを繰り返した。
「子宮口開き待ち」はそのまま朝まで持ち越し、疲労も極限に来た。
9時を過ぎ、10時を過ぎ、11時になろうとした時に、助産師さんが言う。
「そろそろ分娩室に移動しましょう。」
来た、ついに来た。
割烹着みたいな手術服を着て妻の枕元に立ち、頭を押さえながら、「大丈夫、大丈夫だよ」と呟く。
助産師さんの「息を吸ってぇーーー、はいてぇーーー」という掛け声に
合わせて、産むわけでもない僕も息を吸って、吐く。
麻酔が掛かっているのでひどく痛がるわけではないが、それでももの凄い
力を使って懸命にいきんでいる妻を見ていると、涙が出てきた。
何もできない自分。
そんな時に助産師さんが顔を曇らす。
「ちょっと斜めになっちゃってるねぇ・・・」
それ、どういうこと!?ちゃんと説明してよ。そんなセリフが喉まで出かかったが、
懸命に処置している助産師さんにそうも言えない。
ひとりでオタオタしながら、意味なく一緒にいきんでいると、隣を白い服を着たヨーダみたいなおじいちゃんが、ぶつぶつ言いながら通り過ぎて行く。
「何だよ、関係ない事務の人とか入ってくるなよ!」と横目で憤りつつ、声がけしないといけないので「大丈夫、もうちょっと!」と妻に叫ぶ。
気付くとさっきのヨーダが、手袋して巨大な銀色のスプーンみたいな器具を持って、眼前に現れた。
胸には「院長」のネームプレート。
えぇ、院長だったの!?
と、その瞬間、ヨーダ院長は銀色の巨大スプーンを、何やらぶつぶつ言いながら妻のお腹に突っ込んだったのだ。
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銀色の巨大スプーンは、きっと鉗子ですよね?鉗子を使っての出産、新ちゃんも頭引っ張られてきっと大変だったことでしょう(:_;)
私は鉗子を使いたくなくて(顔にあざができると言われたので)、「絶対いやなので、なにか方法ありませんか?」と聞いて、分娩台の上に乗ったままスクワットしました(笑)
出産ってほんといろんなストーリーがありますよね。