2010年06月28日

ソーシャルビジネス振興について


以前「日本の論点」に掲載された小論文を転載します。
(発売から随分経ったので、営業の妨げにはならないと判断しました。)




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政治や行政ではなく、事業によって社会問題を解決しよう。
ソーシャルビジネスが日本を変える!


・病児保育のフローレンスの軌跡と奇跡

「こどもが熱を出すと保育園は預かってくれない。だから家で看病するために会社を休んだらクビになった。」という双子のママの話を、ベビーシッターをしている母から聞いたのは大学4年の頃だった。共働きをしていた母に、私が小さかった頃はどう対処していたのか、と聞いたら「松永のおばちゃん」という近所のベテランママが預かってくれていたという。
こどもが熱を出す、親が看病する、という当たり前のことをして、仕事を失ってしまう社会。子育てに手を差し伸べる、肩を貸すという営みを失ってしまった地域社会。何かがおかしい。

一方で私は学生の頃にITベンチャーを経営していた。上場を目指して朝も夜も働く日々。しかし上場したから何だっていうんだ?自分は本当に意義のあることをしているのだろうか。何かがおかしい。

二つの「おかしい」から、私はITベンチャーを辞め、フリーターになって、NPOを立ち上げた。ナイチンゲールのファーストネームから、フローレンスと名付けた。こどもが熱を出したら、保育園に代わって預かるNPOだ。

既存の病児保育の施設は、保育園の数に比べて2%と圧倒的に少ない。政府の補助金が少なく、規制も多いことで、担い手が参入しないのだ。そこでフローレンスは全国で初めて「施設を持たない病児保育」を始める。「松永のおばちゃん」のような地域のベテランママや元保育士・看護師がこどもの家に訪問して、こどもをいつも見ている小児科医まで搬送。医師の診察を受けた後、こどもの家に戻って親の帰宅まで看病するのだ。

利用料に関しては、時間いくらで取ると採算が合わない。そこで月々、共済保険料のようにかけ捨ててもらって、使う時には無料、という世界でも初めての仕組みを考えた。こどもが健康であまり使わない人の会費が、こどもが熱を出して困っている人のために使われる、正に共済や保険のような仕組みである。

日本ではNPOはボランティア団体と誤解されているが、それは違う。NPOでも人を雇って事業を継続するには、大儲けをする必要はないが適正な利益は出さなくてはならない。「非施設」・「共済保険型」の仕組みによって、持続的な事業を行えるようになった。

こうして日本初の試みは、サービスインから3年で東京23区に広がった。
「職場で白い目で見られることがなくなり、働き続けようと決められた。」
「フローレンスのお陰で、3人目を生む決心がついた。」等、多くの働く母親からありがたいお言葉を頂くことができた。

一方で、月々の共済型の月会費を払えない、経済的に厳しい状態におかれた「ひとり親」の方々には「ひとり親パック」という安価なサービスを提供することにした。原資はゴールドマン・サックス等の企業の方々からの支援や、日本国中の心ある人の、継続的な寄付だ。ひと月1050円クレジットカード引き落としさせて頂ける方が8人集まれば、ひとり親1世帯をサポートできる。こうした取り組みで全国の国民と企業でひとり親を支えている。

このようなフローレンスの病児保育の取り組みは、国をも揺り動かした。厚生労働省はフローレンスに見学に来た後、「施設を持たない病児保育の仕組み」を全国で行うことにした。こうして東京都の下町で始まった小さな社会事業は、制度化され全国に広がり、病児保育という仕事と子育ての両立を大きく阻む社会問題解決に、我々は貢献できたのであった。

・ソーシャルビジネスが社会的課題を解決していく時代へ

こうした「奇跡」は一部の特例であろうか。いや、そうではない。むしろこうした社会事業は陸続と生まれてきつつある。引きこもり・ニートの隠れた発生要因である大学中退を防止するプログラムを大学に販売するNPO。雑誌をホームレスに路上販売してもらい、その一部が彼らに報酬としていくことで、自立を促す事業をしている有限会社。検診を受けられない低所得の若者たちに、ワンコインで簡易な健康診断を行う株式会社。法人格に関係なく、様々な事業が生まれてきて、これまで行政が思いつきもしなかったような革新的な手法で社会問題に挑んでいる。

このように「事業で社会問題を解決すること」を「ソーシャルビジネス」。「ソーシャルビジネス」を行う組織体を「社会的企業」。「社会的企業」を起業する人間達を「社会起業家」と呼ぶ。欧米のNPO業界では、これまでの政府の補助や助成金に頼る手法から、ソーシャルビジネスが主流化してきている。その代表例が、ノーベル平和賞も取った、グラミン銀行のムハマド・ユヌスだ。低所得者に担保も取らず僅かな額を貸し付ける、これまでの常識を超えた貸付方法は「マイクロ・クレジット」と呼ばれ、全世界に広まっている。

日本でもようやく、こうした世界の潮流を受けて、たくさんの社会起業家と、彼らが率いる社会的企業が生まれ始めている。

もちろん企業はすべからく社会的なものであるべきだ。しかし配当を期待する株主を持つ企業は、永久に利潤を最大化させる義務を負う。それが資本主義という発明を実現させたのであるし、世界の富を飛躍的に増大せしめたことは、まぎれもない事実である。

しかしリーマンショック以降の世界経済の躓きに私達が学ぶことは、このままの資本主義のあり方では限界がある、ということだ。もう一つの資本主義。新たな資本主義のあり方を考えださねば、私達の父祖達が築き上げてきた社会、そして私たち人間が幸運にも与えられてきた豊かな自然環境を破壊しつくしてしまうだろう。

新たな時代の新たな資本主義の可能性を示唆するものとして、世界のいたるところで、ソーシャルビジネスが浮上してきたのだ。

・より多くのソーシャルビジネスを生み出すためには?

日本は、借金大国でありながら少子高齢化が世界有数のスピードで進む「課題先進国」だ。海外からはNDC(New Declining Country:新興衰退国 )という言われ方をもするようになってしまった。しかし「課題先進国」は裏を返せば、どこの国よりも早く、どの国も直面する課題に、いち早くぶち当たっているだけ、ともとれる。つまり私達がそのソリューション(解決法)を生み出せば、他国が課題に直面した時に、他国の範となれるということだ。ソリューションを輸出することで、我々は人類に貢献できるようになる。その機会を得ている、と考えられないだろうか。

そのソリューションは、おそらくは世界の潮流同様に、ソーシャルビジネスから生まれるであろう。日本では特に肥大化した政府が行っていた社会サービスを、アウトソースする必要性が出てきている。これまで行政直営、あるいは天下り特殊・公益法人、外郭団体に流していた仕事をオープンにし、ソーシャルビジネスを参入させ、生産性を高めていかねばならない。逆にそれが内需産業創出に繋がっていき、外需依存の経済環境をバランスさせていくことにもつながるだろう。介護や保育、福祉分野は労働集約的で、人手がいる。ということはそこは雇用を大量に生み出す可能性を秘めている、ということだ。ソーシャルビジネスが活躍できる土壌を創ることは、内需産業、ひいては雇用を生み出し、経済を成長させていくことにも繋がっていくだろう。

では日本がソーシャルビジネスと社会起業家をより多く生み出すためには、何が必要なのか。まずありうるのが、寄付控除と株式の保有が認められた、新たな法人格「社会事業法人」を創ることだ。現在、諸外国では当然の寄付控除(寄付を損金算入できる制度)が、NPOには付与されていない。一部認定されたNPOもあることにはあるが、規制の厳しさゆえNPO全体の0.2%。これによってNPOが「良い事業を競い合う」という「寄付市場」の創出が大いに遅れていることは、日本にとって痛恨の足かせになっている。

また、従来のNPOは株式を持てない。ゆえに資金調達の方法に限界が出てしまう。そこで、ユヌスも自著「貧困なき社会を創る」でも提言している手法だが、非上場・非配当の株式を「社会的企業法人」が保有できるようにするのだ。これによって、たとえば障がい児の親達が共同で作業所を創る時に出資を出し合い、またなおかつ地域の人々から寄付を集める、というようなこともできるような事業体が生まれる。

既存の株式会社の中の多くも「自分達は上場も目指していないし、むしろ社会問題を解決するために事業をしたい」というところがあれば、「社会的企業法人」に乗り換えることができる。

こうした形で、現在生まれ始めているソーシャルビジネスたちを制度的に下支えすることが可能になってくるのだ。

実は既にイギリスではCIC(Community Interest Company:地域利益会社)というソーシャルビジネスのための新たな法人格が創られている。日本のNPOに範を得てNPO法を創った韓国だったが、IMFショックで得た危機感をバネに、日本に先んじて「社会的企業育成法」を2007年に可決させ、社会的企業法人制度を確立している。

もはや政治家や官僚を叩くだけで留飲を下げる時代は終わった。我々国民が事業によって社会問題を解決していく、新たな時代が幕を開けようとしている。国を助けて、国を頼らず。明治以来のお上依存体質から脱却できるかどうかは、私達国民に、そう、つまり私とあなたにかかっているのだ。

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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
PCサイト http://www.florence.or.jp/
携帯サイト http://www.florence.or.jp/m/index.htm

病児保育で困っている、サービスを希望するという方は、
こちらのフローレンス本体のページから、お申し込み下さい。http://www.florence.or.jp/

我が子が待機児童になってしまって困っている方は、
「おうち保育園」でお預かりができるかも知れません。
http://www.ouchi-hoikuen.jp/

フローレンスのサービスエリアは東京23区の足立区/板橋区/江戸川区/江東区/品川区/渋谷区/新宿区/杉並区/墨田区/台東区/中央区/千代田区/豊島区/中野区/文京区/港区/目黒区/荒川区/大田区/世田谷区/葛飾区/北区/練馬区 に加えて、千葉県浦安市です。

ひとり親への超安価な病児保育サービス「ひとり親パック」に共鳴し、寄付を
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http://www.florence.or.jp/corp/fr/fundraiser/


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↓からお申し込み下さい。
http://www.florence.or.jp/inquiry/form1/ask_kouen.htm


フローレンスへのインターンを希望される学生は、
NPO法人ETIC.の細田さん宛にご連絡頂ければと思います。
http://www.etic.or.jp/


いつもご支援頂き、誠にありがとうございます。
これからもどうぞ宜しくお願い致します。
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posted by 駒崎弘樹 at 08:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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