2010年03月07日

こども手当はバラマキか


国会を通過したこども手当法案は、マスコミによって激しい攻撃を受けているようです。


いわく、4.5兆円もの巨額のお金を、金持ちにもばら撒くのはけしからん。選挙対策だ、とのこと。

本来ならこうしたことについて学者の先生ではなく、いち現場の実践者が発言するのも適切かどうか分からないのですが、あまり保育関係者から意思表示されていないようなので、私見として発言したいと思います。

まず、基本的なことなのですが、日本が現状で家族・こども政策にどれだけのお金を割いているのか、を見てみましょう。

2010y03m07d_174724232.jpg

4兆735億円ということで、対GDP比で言うと0.81%です。
一方で福祉に手厚いスウェーデンは3.12%、少子化を克服しつつあるフランスは3.02%です。

そう、全然少ないわけですね。こどもにお金が使われていない。

これにこども手当の就学前相当分を足してみましょう。本当は小学校1年生以降のお金は家族ではなく教育支出に含まれるので、4.5兆足すのは多すぎ(実際はここに足していいのは1兆程度)ですけども、まぁ全額家族支出に入れ込んだとしても、対GDPにすると1.74%にしかならないわけですね。

こども手当を足しても、少子化対策で効果をあげている外国には及ばないよ、ということなんです。

更にちなみに、これを高齢者支出と比べてみましょう。

2003年でちょっと古い資料で恐縮ですが、それでも大して変ってないので十分有効だと思いますが、このグラフ。

2010y03m07d_173023835.jpg

参照元

右から3番目の日本の棒グラフを見て頂きたい。
高齢者対こどもの支出は、8:0.7。
えっと、ばっくり言うと、11:1くらい。
日本は高齢者にこどもの11倍お金を出しているわけですね。

なぜこんなに出しているか。それは明白でして、投票率が違う訳ですね。
こどもを持つ2、30台の親なんて選挙にいきゃしません。だいたい2,30%くらいの投票率。それに比べて高齢者の方はきちんと選挙に行ってくれます。60%程度。そうすると、政治家にとっての投資対効果の比較は言わずもがな、ということですね。

これは政治家を責められません。政治に参画しなかった、我々若者世代の責任です。


さてさて、話を元に戻すと、子ども手当はバラマキか、という問いに対しては、僕は個人的にはNOと言いたい。だって今まで次世代に全然投資して来なかったわけだし。それをバラマキって言われても、ねぇ、という感じでしょう。

ただ、一点だけ改善の余地があるとするならば、サービスとお金のサポート、どっちによりお金をかけるべきか、というところです。

さっきのグラフに「現金給付」と「現物給付」という分かりづらい社会保障用語が書いてあります。簡単にいうと「現ナマあげる」と「サービスあげる」です。

スウェーデンとかフランスだと、「サービスあげる」の方が予算の割合としては高いわけですね。一方日本ではこども手当が全額「現ナマあげる」なので、「現ナマあげる」の方が格段に割合が大きくなっているのです。

「現ナマあげる」というのは、所得が低い世帯の方々にとってはとっても助かるのですが、例えば現ナマをもらったら、子育てと仕事の両立がやりやすくなるか、というと、例えばそれを支える保育所であったり、病児保育サービスであったり、そうしたサービスがあるのに比べて、弱いわけですね。

日本は2030年には労働人口が今の8割になっちゃうので、かなりピンチ。一方女性が出産と共に7割辞めています。こいつはとってももったいない、ということで、女性(も男性)も子育てしながら働ける環境をセットアップするのが急務な訳です。

その優先順位から考えると、子育てと仕事の両立を支える「サービスあげる」をもっと伸ばさないといけなくて、じゃあどうやってそういうサービスを増やしていくか、というと「子育て支援サービス市場」を拡大していけば良いわけです。そのためには、事業者がどんどん起業し、参入してこなきゃいけない。彼らに参入してもらうためには「事業として成り立つ」という状況にしてあげれば良いわけです。

というわけで、子ども手当の一部を、クーポンにして、色々な子育て支援サービスに使えるようにしてあげると、事業者が「よっしゃ、これなら成り立つぞ」と参入してきてくれるわけです。(個人的には「子育て支援儲かるぞ、ぐへへへ」みたいな人には来てもらいたくはないのですが、まぁ色んな人達が競争し合うことで良いものは生まれてくるので、そこらへんは仕方ないかなと思います。)

ちなみに子ども手当は4.5兆あるのですが、待機児童問題は2兆円あれば解決できると言われています。2万6000円のうち1万3000円くらいをクーポンにして、認証保育所や認可外保育所で使えるようにしてあげると、一気に民間保育園市場が広がるわけです。(認可保育所は既に税金を大量投入されているので、それ以外を伸ばします)

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そんなわけで、最初はとにもかくにも子どもにきちんとお金使う、ということで「現ナマあげる」でも良いけれども、徐々に「サービスあげる」を増やすためにクーポンと混合していくことが良いかなと個人的には思います。

ただ、定額給付金の時もそうでしたが、クーポンだと輪をかけて事務費がものすごいことになっちゃうので、じっくりオペレーションのフローは考えないといけません。

更に国民の方も「2万6000円から減らされて、変なクーポンになりやがった。損した。」と怒らずに、10年、20年後の日本の子育てを支える産業を育成しよう、という観点を持ってくれないと、こうした政策は実行できないでしょう。

結論。こども手当はバラマキではない。こどもへの支出は、未来への投資。しかしお金の出し方は要調整。ということでしたー。異論反論、大歓迎です。

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posted by 駒崎弘樹 at 19:16 | Comment(6) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
子育て世代として同感です。
政府が、現金で配布する政策−所謂ばらまき−に頼らざる得ないのは、我が国の行政組織の効率の悪さに起因するのではないのでしょうか。

たとえば、あるサービスを提供する政策を実行するにしても、省庁、県、市町村という組織を通して市民にサービスが届くまでに、予算が無駄に使われてしまう。

それならば、直接市民の懐にお金を注入するほうがマシだと思います。すくなくとも、行政組織の効率があがるまでは、、、
Posted by 吉本 at 2010年03月08日 11:56
なるほど、高齢者への支出との比較のグラフは説得力ありますね。

このグラフを見て思ったのは2つ。

1つは、いわゆる"PIGS"という有難くない名前を頂戴している国々(スペインは無いですが、ポルトガル、イタリア、ギリシャはあります)、そして日本という財政赤字がひどく目立つ国々は一様に高齢者への支出が突出している事。

もう1つは、韓国の数字(絶対値)の低さへの驚きです。賛否はあるとは思いますが。。。

いずれにせよ、日本で優先度が高いのは、駒崎さんご指摘の通り、優秀な主婦層を労働力として流動化させるためのセーフティネットの拡充だと思います。
Posted by 鈴木英介 at 2010年03月10日 23:23
確かに、「子供への支出」は「未来への投資」と考えてよいでしょう。ですが、「子供手当」が本当に「子供のため」に使われるのか、というのが「バラマキ」と批判させる一番のポイントだと思います。

不景気、雇用(収入・貯蓄)不安、年金不安、家庭崩壊(一部)などの日本の現状を考えて、一体どのくらいの家庭が、「子供手当」を「子供のため」に使うでしょうか。政府はそこを慎重に検証したでしょうか。合理的に説明できるでしょうか。

「他国と比べて多いか少ないか」の議論の前に、そもそもそういった合理的議論が全くなされていないまま強行に進める姿勢が、「票集め(=バラマキ)」ととられているのです。

また余談ですが、日本に住民票がある外国人であれば、その子供や養子は日本に住んでいてもいなくても、日本人と同額もらえます。

これは、本当に「子供への投資」、「日本の将来のための支出」と言えるのでしょうか?

日本の財政の状況を鑑みて、日本国籍がない人たちにまで、本当に今そこまでの待遇をすることが必要なのでしょうか?

私は、この法案は決して純粋な「日本の将来のため」のものではないと思います。

国籍法、参政権と合わせて、在日外国人の持つ資金と票を獲得するものと言われても仕方がないのではと思います。
Posted by 吉田秀樹 at 2010年03月16日 16:47
「異論反論、大歓迎」を鵜呑みにしました。
申し訳ありませんでした。
Posted by 吉田秀樹 at 2010年03月16日 17:14
>吉本さん

仰る通り、行政を噛ませることで、事業効率は下がってしまうことが、たびたびありますよね。そういう意味でも、利用者にお金を渡し、選択可能な状態にし、競争原理を働かせることで生産性をあげる、ということがポイントですね。
Posted by 駒崎弘樹 at 2010年03月17日 11:47
駒崎さんのツイッターでこちらのブログページがリンクされていたので改めて読ませて頂きました。

高齢者と子どもに掛けるお金のギャップについてはその通りで、よく存じていました。

結論から申し上げると、駒崎さんがUstなどを利用して国政を身近に感じられるようにする取り組みは非常に評価できるものであり、そのことによって20代以降の子育て世代が少しでも政治に興味を持って投票に行って欲しいし、政治に興味を持ってもらいたいと思っています。
やはり行動しない人、票という有権者の力を集めることが出来ない言葉には、政治は左右されません。

今回の「子ども手当」は、昨今の選挙で投票した人の支持政党動向などを見てもわかるように、浮動票対策ともいえます。
民主党に前回の衆議院選挙で投じた人の多くが無関心層、無党派層でした。
その人達の票を逃がさないようにする政策であることは間違いないと思います。
その考え方がいけないというわけではなく、政治はそういう力学でしか変わっていかないのも事実です。

そのことを踏まえた上で、駒崎さんは、子ども手当を現物給付することによって、子育て世代のパチンコ台や飲み代に消えてしまわないような配慮をされていると思いますが、それはまったく同感です。
しかし、おっしゃる通りクーポン券にすることによって、事務的経費が膨大にかかります。
そのことよりは申請をした人が、実際に保育園にかかる時、もしくは病児保育などのサービスを受ける時、診療報酬制度のような、保険適用を受けることで自費負担部分が減るような制度設計にすればいいのではないかと思います。
いや、そうしなければ制度として定着しないのではないかと思います。

今後、医療制度、障害者制度、そして子どもに関する制度も全て一本化の方向に向かう中、医療の世界である程度成功している公的保険制度の考え方をもっと保育分野にも適用したらいいのではないかと思っています。

以上、駄文失礼しました。
Posted by 湯原淳平 at 2010年04月12日 07:51
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