2010年02月08日

「子ども・子育てビジョン」をビジョンで終わらせないために 〜「国民保育券」構想〜


政府は1月29日に「子ども・子育てビジョン」を閣議決定しました。日本の子どもたち、そして親達の環境を国家としてどのようにしていきたいのか、を数値目標に落とし込んでいます。 http://bit.ly/deLKRm


まず数値目標を出す、という姿勢はとても良いと思います。なおかつ例えば私の専門分野である病児保育に関しては現状の31万人から200万人に、ときちんと利用者数を置いたところは評価できます。これまで自民党政権では利用者数ではなく、施設数を目標数値に置いていました。これは犯罪率を下げるために、犯罪被害者数を何%減少させる、と言う代わりに、「警察署をいくつ作ります」と言っているようなもの。目標と手段が逆転している状況が是正されました。

では、この立派なビジョンは実現可能なものでしょうか?残念ながらこれまでの方法をそのまま使うとしたらビジョンは単なるビジョン(夢)で終わりそうです。

例えば病児保育を例にとりましょう。公表資料によると病児保育+延長保育+休日保育で合わせて200億円が予算として計上されています。

このうちの大部分である150億円を病児保育に使えたとしましょう。

現在政府の唯一の政策オプションは病児保育施設を作ることですので、当然これまでどおりでいくならば、政府は150億円を病児保育施設の増加に使います。

そうすると
150億円(予算)÷840万円(年間運営費)=1785施設(増やせる施設数)

となります。この1785施設でどれだけのこどもを預かれるかと言うと、

960人(施設の年間定員数)×36%(東京都の病児保育施設の平均稼働率)×1785施設(150億円で増やせる施設数)=61万6896人(増やせる利用者数)

となります。
先程31万人から200万人に増やそう、というのが子ども・子育てビジョンの目標値だとご紹介しました。しかし150億円かけて増やせるのは理論値でも約61万7000人。

全然足りない!!!のです。

なおかつこれは100%国がお金出したら、という仮定で、実際は自治体と折半。そうするとお金がない自治体は「うちは無理だわ」ということで手は挙げない。よしんば手をあげたとしても受けてくれる小児科医が理論値程いるかというと、いないわけです。というわけで、この61万というのは、ほとんど奇跡的な前提が揃っても、それでも61万人、ということで実際はもっともっと少なくなります。

そうです、このままだと目標値とかけ離れた数値しか達成できないまま「すいません、できませんでした」ということで終わりそうな匂いが濃厚な政策目標となっているわけです。

さてさて、ここで批判だけでは単なる批評家と一緒になってしまうので、現場の実践家たる私は代替政策を提案致しましょう。

名付けて「国民保育券」構想です。

「国民保育券」というクーポン券(スイカみたいなICカードでも可)を発行し、病児保育のサービスを受けた場合にお金の代わりに使えるようにするのです。

病院に行った時、医療費の100%を患者さんが払うのではなく、そのうちの3割を患者さんが負担して、7割は皆で貯めた(+税金)保険料を取り崩して病院に支払われますよね。あれと同じ仕組みで、病児保育を使ったら7割は国からもらったクーポン券で払って、利用者は3割だけ負担すれば良いような仕組みです。

例えばベビーシッター会社に病児保育業界に参入してもらって、病児保育をやってもらったとしましょう。東京都のベビーシッター料金の平均は1時間で1500円〜2000円の間なので、仮に1500円でやってもらったとします。

そうすると普通に払うと、
1時間1500円×10時間(朝8時〜夕方6時)=1万5000円(1日の病児保育料)
となります。

このうち7割が国を持つとすると
1万5000円×70%=1万500円
を国が国民保育券として発行します。

利用者の負担は
1万500円×30%=4500円
という低額で病児保育が利用できるようになります。(生活保護世帯等は100%国民保育券でも良いでしょう)


こうした仕組みだと、一体どれだけの人が助けられるか計算してみましょう。
先程と同じ前提で、

150億円(予算)÷1万500円(国民保育券で70%負担)=142万8571人(国民保育券/クーポンで増やせる利用者数)


となります。先程の病児保育の施設を作っても最大61万7000人弱しか利用できなかったのに対して、国民保育券(クーポン)を発行することでのべ142万8571人の子どもたちを助けることができます。

142万8571人:61万6896人=2.31:1

なので、病児保育施(箱モノ)を作るよりも投資対効果は2.3倍も良いことになります。これは「ハコを作るのではなく、市場を創ろう」という考え方です。国民保育券のようなクーポンを発行することで、国民が病児保育に使える可処分所得が増えるので、当然それを狙う新規参入者(ベビーシッター企業や子育てNPO)が増えます。これまでの「病児保育なんてやっても儲からないし・・・」という状態から「病児保育を仕事にできるぞ」という状態に持っていくのです。

もちろん9割が赤字と言われる全国800の箱モノ施設にもクーポンが使えるようにしてあげれば、既存の施設の経営も助けてあげられることになるでしょう。

ということで、箱モノ施設を予算のあらん限り作りまくるよりも、国民保育券のようなクーポンを発行し、利用者補助をしてあげた方が投資対効果が高い、というのは四則演算さえ分かれば明確に理解できるわけです。

さて、国民保育券には続きがあります。病児保育業界で実験的に導入し、効果がでたら、今度はこのクーポンを延長保育や休日保育、学童保育や認可外保育施設でも使えるようにしていくのです。

そうすることによって、学童保育が経済的に成り立つのが難しくて利用しづらい形態(17時で閉園等)になってしまう「小1の壁」問題も解決していけるし、認可保育所と認可外保育所が補助金が違いすぎて全く競争にならない(ゆえに認可保育園でしか運営できないが、認可保育園には参入障壁があって増えない)、という「イコール・フッティング問題」の解決にも貢献できます。

そんなわけで子ども・子育てビジョンでせっかく財源を確保したのであれば、これまでの政権と違って、このような戦略的な政策によって効果を生みだして頂きたいと思います。

厚生労働省政務三役(大臣・副大臣・政務官)及び厚生労働官僚の皆さん、ここらで本気でこの問題に対して実際的に手を動かしましょう。出産と共に7割の女性が仕事を辞める恥ずべき社会を、大転換させるために。美しきビジョンで終わらせる選択肢など、私達には許されていないのですから。

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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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posted by 駒崎弘樹 at 18:47 | Comment(7) | TrackBack(1) | 業務日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
国民保育券構想。
大変興味深く拝読しました。
ただ、一読しただけではよく理解でいないこともありますので、少々時間をかけて考えてみたいと思います。

一点。
国民保育券を支給されても。
保育を実施していただく施設は、必要になると思います。この点は、どのように考え、解決していけばよいのでしょうか?


いとうとしひろ
Posted by いとうとしひろ at 2010年02月08日 20:12
>いとうさん

病児保育を行うのが病児保育施設だけである必要はありません。地方の病児保育施設で極端に稼働率が低いものなどもあります。地域の特性にしたがって施設を取るか非施設を取るかは、その地域に任せた方が良いのです。
地域行政は機動力がないので、事業者が自己判断で参入してくるようなインセンティブをつける、というのがこの政策の趣旨です。
Posted by 駒崎弘樹 at 2010年02月09日 09:08
駒崎様

はじめまして。いつもブログを拝読させて頂いております。私も線維筋痛症友の会というNPOに積極的に参加しております。今後色々と御意見を交換させて頂ければと思います。

ところで、2月8日に記載された内容で、数字の部分で2点質問があります。

まず1点目、840万円という年間運営費の根拠はありますでしょうか?

次に、施設の年間定員数が960人/年とありますが、これは月当たり80人であります。こちらの根拠についても御教示頂けませんでしょうか?

宜しくお願い致します。

林 晃司

Posted by 林 晃司 at 2010年02月15日 17:06
駒崎 弘樹様

ブログ拝見させて頂きました。保育士をしております。
保育券構想確かに、箱を作るよりも合理的ですね。
公的な予算を使う考えならば、不必要な利用の防止や、他の納税者が構想に対し、納得できるような周知の為に、病児の明確な基準はありますか?
保育現場では、あきらかに座薬で熱を下げて預けられている子供、高熱があっても(上がるだろう予測がついていても)それが0歳児でも、すぐに迎えに来られない状況を何度も見てきました。
身近に病児保育が普及してくれたら・・・と何度も思いました。できることなら、長時間保育や休日保育の必要がない社会になってほしいです。病児保育もあまり必要のない社会になってほしいです。各家庭の、経済状況や、景気の関係もあるし、親御さんの自己実現もあるからなんとも言えないですね。私の、理想です。
Posted by 稲村 香菜子 at 2010年02月20日 13:36
駒崎さん

ご著書「社会を変える・・」を拝読しまして独身の駒崎さんの行動力に励まされています。弊社は現在事業内保育所という形で子連れ出勤のママ達が仕事をしています。
保育所という限られた年齢の子ども達を預かる施設では公的な支援がないと運営はかなり厳しいです。基準に到達する為の規制はかなり厳しい割りに助成金の恩恵を受けるのは一部の優遇された施設のみという現状です。
母親の時給が保育料に消えるというのも潜在的な待機児童85万人の大きな原因でしょう。今回の保育券構想は弊社としても是非とも実現していただきたいアイディアです。
「産めといい、仕事は取り上げ、金を取る」
待機児童ママの保育政策を皮肉った川柳です。

「参加するけど依存しない」そんな国民性を確立していきましょう!
Posted by 恵 夕喜子 at 2010年03月17日 15:58
>恵さま

仰る通りですね。事業所内保育所の補助も現在は厚労省から事業者に出される形になっているため、設置には厚労省基準を踏まえざるを得ず、設置ハードルが高い状態になってしまっていますよね。

働き方に合わせて、もっと柔軟な保育が色んなところにあって良いわけで。

お互い両立可能な社会を目指す者同士、頑張っていきましょうね!今後とも宜しくお願いします!
Posted by 駒崎弘樹 at 2010年03月18日 13:32
はじめまして。バウチャー制のメリットに興味がありましたので、ブログ拝見しました。いつも定量的な事実情報から考える駒崎さんの姿勢には深く感服します。その上で、より理解を深めるために質問させて頂きます。ごく初歩の理解が足りないのだと思いますが、どうしてもわからないので、補足頂けると幸いです。

私は以下のように理解しました。

●従来の箱物アプローチの場合
年間で保育できる児童数は
予算150億円÷年間運営費840万円×960人(定員)×36%(稼動率)≒617千人

●バウチャー制の場合
1日に保育できる児童数は
予算150億円÷(1日の児童保育料15000円×70%)≒1,428千人

駒崎さんのお話はこの2つを比較されているようですが、後者は1日当で算出されておられるので年間に合わせて比べる必要はないでしょうか?仮に、年間平均12回保育所に預けたい親御さんがおられる場合、年間1人当たり保育料(国負担)は15000円×70%×12=126千円となり、その前提の場合、150億円で保育できるのべ人数は119千人となってしまいます。これだとバウチャー制のほうが保育できる人数が減ることになりますので、おそらく私の理解が間違っていると思いますが、どこがおかしいのか理解に苦しんでいます。多分、前提が異なるのだと思いますが、正しく理解したいので、ぜひご助言ください。

宜しくお願いします。
Posted by わんこ at 2010年04月18日 14:38
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