2009年12月30日

【献本御礼】「ユナイテッドピープル クリックから世界を変える 33歳社会起業家の挑戦」

著者関根健次さんから、忘年会で酔っぱらいながらも献本頂いた。



クリック募金、というおよそビジネスにならなさそうなビジネスを立ち上げ、多くのNGOに寄付を行い、途上国の現状を映した映画の配給までしている、ユナイテッドピープル社

そのユニークな事業の立ち上げ前から起業のプロセスを、ご自身の言葉で語っている。

彼を起業に踏み出させたエピソードが胸を打つ。パレスチナに旅行に行って、日本好きなパレスチナのこども達とサッカーをした。あるこどもに「君の夢はなんだい?」と聞いたところ、彼はあどけない顔で「爆弾を作って一人でも多くのイスラエル人を殺してやるんだ」と言ったという。

聞いてみると彼の叔母さんはイスラエル兵に意味なく射殺され、友達も撃たれ、兄は不法に投獄されていた。

そんな小さなこどもに対し、何か言おうとしても、著者は言える言葉を持っていな。とりあえず
「そんなことは殺し合いの連鎖を引き起こしてしまうよ。両者が共存できる方法を考えよう」と言う。

しかしそれは「正論」であったとしても、当事者の少年には刺さらない。安全な先進国にいる人間の、無意味な言葉。

こうした無力感と、著者がITベンチャーで過労で倒れた時に感じた「俺、このまま死んだとしたら、後悔してない、って言えるかな」という本源的な問いが混ぜ合わされ、生まれた結論が「あのパレスチナの子どものような人々のために起業しよう」であった。

元ITベンチャー、アラサーという共通点から共感を持って読み進めたが、僕が最も驚いたのが彼の「へこたれなさ」だ。

彼のオンライン寄付サイトの事業は、初年度の寄付額が2万円だったという。1日じゃなくて、1年で2万。僕だったらこの時点で心折れる。しかも創業3年後の06年の段階でも100万以下の寄付額しか集まらない。普通だったらとっくに辞める。

けれど石にしがみつきつつ、寄付不毛の土地日本で、インターネットを使った寄付サイトを運営し続ける著者。07年から1000万、次年度で2000万円と急成長を迎えたのでほっと胸をなでおろすが、このへこたれない根性は学ぶべきところが大きい。

さて、本書の副題に社会起業家とある。
社会問題を「事業によって」解決するための起業を社会起業という。その主体は法人格の如何に関わらず社会的企業と呼ばれ、創業する人間は社会起業家と規定される。これらはそれぞれ英語のSocial EntrepreneurやSocial Enterpriseの訳語で、economyを経済と訳しても明治時代の日本人がピンと来なかったように、いまだ言説としての十分な理解を得ていない。
「企業も社会貢献しているのだから、社会をわざわざつけなくても」というようなことを、それなりに知識レベルの高い人まで言っている。

企業が社会貢献するのは当たり前。経済活動をするだけで、資本主義に貢献している。しかし市場の失敗という言葉が明示するように、市場(企業活動)だけでは社会問題は解決できないし、むしろ市場によって社会問題が引き起こされることもあり得る。(環境問題・児童労働・長時間労働・軍産複合体における紛争促進etc)

一方国家が市場の失敗を補完し、社会問題の解決に乗り出しても、規模の大きな官僚機構は動きが遅く硬直的な制度運営にならざるを得ず、全ての課題解決を期待できない。財政赤字が膨張した今日のような場合はなおさらだ。(国家の失敗)

ゆえに第三の道として、市場でも国家でもない主体による、さらなる問題解決が期待される。それがNPOだ。市民が自立的に自らの周囲の問題にコミット(参画)し、解決していく営み。

とはいえ市場・国家の失敗に続き、サラモンも言うように「NPOの失敗」に直面する。米国の状況はサラモンの著書が有名なので繰り返さないが、日本ではNPOの脆弱性がメインテーマになる。先人たちの多大な苦労によってNPO法成立にこぎつけ、自由で創造的な市民活動を可能にする法人制度が生まれ、法人数が約4万にまで成長したまでは良かった。地域の相互扶助的な営みは促進されたが、継続的な取り組みを必要とする社会サービスを担いうる体力とマネジメント力のあるNPOは30%を切る。

治安や教育、保育や医療、ホームレス支援から民間外交まで、本来市場性が極めて低いが、しかし社会維持のために欠かすことのできない領域というものが存在し、市場性が無いにも関わらず持続的に活動していかなくてはならない。

こうした状況においてNPOが取った道が、事業化の道だ。政府の補助や助成金に頼るのではなく、事業によって、また戦略的な寄付営業によって収入を確保し、継続的に、市場性の低い(しかし社会のためには必要な)領域においてサービスを行うことにしたのだった。それまでの伝統的な無償ボランティアに依存したスタンスと区別するために、自らをソーシャルビジネス(社会問題/社会的排除を解決する事業)と位置付けるようになる。

地域の互助的な営みは旧来のボランティア団体が担い、絆を張り巡らせる。一方で継続的かつ組織的なアプローチが必要な社会サービスや問題解決においてはソーシャルビジネスが担っていく。こうした幾重にも貼りめぐらされたセーフティネットによって、国家の退潮によって空洞化したセーフティネットを補完していくのである。

崩れゆく日本社会を食い止め、サステナブルにしていくために、国家・市場、そして社会的企業を含めた広い意味でのNPOの連帯と協働が必要なのである。

著者のようなビジネススキルのある人材が、人材枯渇状態にあるNPOセクターにどんどんと流入してくることは幸いだ。欧米では例えば官僚を退職した人がポリティカルコンサルタント(市場セクター)になり、一線のビジネスマンがソーシャルビジネス(NPOセクター)を立ち上げ、NPO職員が政治家(国家セクター)になる、と言ったセクター間の人材流動性が確保されている。

残念ながらわが国では現在、官僚の多くは一生官僚であるし、ビジネスセクターの人々の多くはNPO(と社会的企業)を誤解していて足を踏み入れないし、NPO側でも狭い純血意識にとらわれている。

そうこうしている間に社会と言う船に空いた無数の穴から水が漏れだし、甲板は水浸しになっている。我々には時間がないというのに。

日本が変われるか否か。それは著者のように、セクターの壁に囚われない、そして決してへこたれない志のある若者の挑戦に、かかっているのかも知れない。

______________________

当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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posted by 駒崎弘樹 at 19:42 | Comment(3) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
『ユナイテッドピープル』を刊行した、ナナロク社の村井と申します。
このたびは、本書をとりあげていただき、
ありがとうございます。


>僕が最も驚いたのが彼の「へこたれなさ」だ。


駒崎さんにこの一文を書いていただけたこと、本当に嬉しいです!!

負けたとき、負けた自分を感じて、さらに落ち込んでしまう。
「負け」に「負け」てしまう人も多いのではと思います。
関根さんのへこたれない力は、
いわば「負けに負けない」強さなんですよね。

貴著『「社会を変える」を仕事にする』の中で、
逆境をはねのけていく姿に感動した身としては、
駒崎さんからのこの言葉は、まさに「会心の一撃」です。(笑)

本年もへこたれず出版道を進んでいきます!


※追伸
「カールじいさん」私も観ました。
あれは、よかったー。
過去を大切にすることと、過去にとらわれる
ことは違う、
過去を力に変える、輝かせるのは、
今を生きること以外にないんだなあと。

ただ、私は一人でみたのですが……。
ふぅ。
Posted by 村井光男 at 2010年01月04日 18:31
>村井様

コメントありがとうございます!
素晴らしいご本を出されましたねー。
僕も病児保育のマニュアル本的なマニアックな本を作りたいと思っていて、あんまり爆発的に売れなそうですけどロングセラーにはなりそうなので、是非いつか相談に乗って頂けましたら幸いです。
今後ともどうぞ宜しくお願い致します!
Posted by 駒崎弘樹 at 2010年01月04日 18:56
>駒崎様

是非いつかなんて、とんでもないです!
こちらこそよろしくお願いいたします。

それにしても、
新作のご提案、ブログとツイッターでやってしまうなんてすごいです。
執筆家がどんどんセルフプロモーションできる時代に
なったんだなと感銘しました。

出版社と作家の契約ももっとオープンにして、
競合したら面白くなるなー。
Posted by 村井光男 at 2010年01月05日 16:21
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