アルファブロガー小飼弾氏の作品の中で、僕は最も本書を評価したい。
なぜなら、本書は真っ向から「我々が目指すべき社会とはどのようなものか」という問題に対してがっぷり四つに組んでいるからだ。
これまでの著者の作品は、「我々はどのように働くべきか」「我々はどのようにあるべきなのか」ということにフォーカスを当てていたのに対し、我々の共同体の在り方をむんずと掴んで読者の目の前にえいやっと投げつけた感じの、汗がこちらの顔に飛び散ってきそうなほどの熱気を感じさせる作品だ。
とはいえ社会について書かれているといえど、社会が主役なのではない。私たち人間が主役の社会。社会によって個人が押しつぶされるような社会ではなく、我々個人が本当の意味で「豊かな」社会。
本書は「ベーシックインカム」について書かれている。僕のように広い意味で社会福祉に関わっている人間にとってはなじみ深い「ベーシックインカム」の議論であるが、「社会主義的だ」「理想論だ」という批判もあり、まだまだ国民的な合意はないし、簡単にいえば「なにそれ?」というところだろう。
Wikipedia先生の解説が相変わらずよくまとまっているが、簡単にいえば「税金で国民一人一人に最低限生活できるだけの現金を配ること」である。
そんなのできるの?と言いたくなりますが、出来る方法はあるわけで。
本書では一例として「相続税を100%にしましょう」と言っている。
日本では年間110万人の人が亡くなっているけれども、彼らは80兆円を使い切ることなく死んでいる。2020年にはその額なんと109兆円にもなるという。
これを100%相続税として国庫に入れて国民全員に配分すると年間一人64万円。これで月々約5万達成。4人家族なら256万円。この額は、08年度世帯年収中間値の443万円の半分を超えていて、相対的貧困が全て解消される。(相対的貧困は中央値を下回ること)
まぁでも月々5万じゃしんどいね、ということだけども、そこは家族で集まって、更に働ける人はぼちぼち働けば、まあ死ぬことはないぞ、と。
しかも例えば学校が無償で行けたり、医者がすごく安かったりしたら、更に収入が多くなくても生活していけるようになる、と。
随分「大きな政府だなぁ」と思う方もいるかもだけども、実はベーシックインカムは小さな政府を実現するもの。なぜなら、ベーシックインカムがあれば、今大変なことになっている年金すら廃止できるから。年取ってリタイアしても、ベーシックインカムと貯金さえあれば暮らしていける、ということ。更に失業者対策、無駄な公共事業も必要なくなる。失業しても生きていけるから。色んな省庁がやっている事業は要らなくなり、厚生労働省は2割くらいの規模に削減できるんじゃないだろうか。
また、「何やっても飢えはしない」という社会だと、色んなリスクテイカーが出てきてくれる。好きなことで起業する人。好きな芸術に一生を捧げる人。食えそうもないけどすごく大切な研究に打ち込む人。こうした人がたくさん出てくるとそのうちの一定の確率で世界的な大企業、世界的なアーティスト、世界的な学者が生まれてくる確率も増える。
で、ここまでだったらベーシックインカムの紹介に過ぎないのだけど、本書のすごいのは、ベーシックインカム導入の時に必ず出るのは倫理的問題に対して「そんなんじゃねえ!」と丁寧に、かつ大胆に反論していることだ。倫理問題とは、例えば「勤労の美徳がなくなると国が成り立たなくなる」「働かなくても生きていけるようになったら、誰も働かない」というような。
それに対して、「いやいや昔はそうだったかも知れませんが、今の知識経済にとっては、それはないんですよ。なぜなら・・・。」と。ここまでしっかりと筋立てて、かつこれからの経済の仕組みの変化を見据えて反論してくれた書物は、類を見ないのではないだろうか。詳細は本書を見られたし。
何を隠そう、実は僕もベーシックインカムを好ましく思っていて、それと同時に小さな政府を実現した方が良いと思っている人間だ。「政府は小さく、社会は分厚く」あってほしい。そうした自分にはこの本はど真ん中である。多くの政治家・官僚、そして日本国民に読んでほしい一冊だ。そしてこの本にあるビジョンの実現に一歩踏み出してほしい。
「働かざるもの食うべからず」なんて狭いこと言ってないで、皆が飢えないで楽しくやれる社会を夢想しようよ。夢物語に聞こえたとしても、全てのシステムは小さな「こうだったら良いな」から始まるんだから、そっから始めようぜ。
そんな著者の魂のつぶやきが聞こえた気がした。
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