先日のエントリーに多くの質問や意見を頂きましたので、
お答えいたします。
Q:小学校・中学校の教員が公務員なんだから、保育園だって公務員で良いのではないか?
A:小学校と中学校は義務教育です。保育園に入れるかどうかは国民の選択。
ご存じの通り、小中学校は義務教育として、親はこどもを学校に行かせる義務を負います。言い換えると、国家から国民は強制され、それに反すると罰を与えられます。
(より正確に言うと憲法という国民から国家への命令書にしたがって、国家が強制力を発動します。)
そのため、義務教育は基本的には全ての国民が通えるよう、経済的負担は税金によってまかなわれます。
一方で、幼稚園や保育園に行く、行かないは国民の選択です。
ゆえに、保育園を行政(公務員)が行わなければならない必然性は、本来ありません。
ただ、地域において保育園をやってくれる事業者もおらず、しかし保育園に預けたいという住民がいる場合は、市民ニーズを組んで行政サービスを行う、という点において行政が行うことの合理性が生まれます。
また補足すると、「行政がやる」ことと「公費(税金)を投入する」ことは同じではありません。
「行政がやり」「公費(税金)を投入する」こともあれば
「行政がやらず」「公費(税金)を投入する」こともできます。
たとえば医療は、一部は公立病院はありますが、基本的には民間の医療機関が主体になっています。ただ、医療保険という公費は投入されているわけです。「行政がやらず」「公費(税金)を投入する」パターンです。
同様に保育所も公費(税金)は投入しつつ、主体は民間、という風にすることもできるわけです。
「民間は儲け主義だからダメだ。」という人もいます。
ならば我々は病院に行って「ここは公立じゃないから、手術は
受けたくない!」と言うかというと、そういうことはないですよね。
というわけで、「行政がやる」のが当たり前なのではなく、それらは国民の選択でどうとでもなり得る、ということなのです。
Q:保育士さんは高給取りなの?
A:保育士さん一般は、高給取りではありません。公立(行政が直営でやっている)保育所の、しかも正社員の給与が、業界水準を大いに上回ります。
認可保育所(保育所と保育園は同じものですが、正式には保育所です)には二種類あります、公立と私立です。利用者からもらう保育料と、国や自治体からもらう補助金によって基本的に運営します。
公立は役所が直接やり、私立は社会福祉法人等の民間団体が役所から委託されてやるわけです。私立は補助金と保育料で赤字がでないように運営しますが、公立は行政が直接やりますので、赤字が出ても他の財布から補填して運営します。他の財布、というのはもちろん国民の税金です。
ゆえに、公立保育所の正社員の人件費は高くなるわけです。
しかし問題は保育所の職員の人件費が高くなることではなく、
「公立保育所だけ」「正社員だけ」の給料が高いことが問題なのです。
保育に携わる全ての職員が正当な給与をもらえるようにするのがビジョンであり、現在の「税金再配分の偏り」が一つの大きな壁になっているのです。
Q:そもそも子どもに使われる額自体が諸外国と比べて少ないんだから、認可保育所にたくさん税金が投入されていたって問題ないよ
A:こどもや子育てにはもっと税金を投入すべき。しかし今の状況では税金を投入しても保育所が増えないという構造的な問題を抱えています。それを打破し、より多くの税金を投入せよ。
ダイヤモンドの認可保育所批判は、認可保育所の障壁の高さ、競争が公正ではないこと、をえぐり出しています。こうした状態で「もっと税金を投入してくれ」というのは、説得性を持ちえません。また投入したとしても成果が出なければ公益に反します。
だとするならば、政府に対するメッセージとしては、「改革しましょう。そうすれば予算対効果があがります。ということは、予算をつけるのは無駄じゃありません。だから、もっと多くの予算をつけましょう。」
と言う風になるわけです。
以上、Q&Aでした。本当は保育学者の方がブログなどを解説し、国民的対話を起こしてほしいのですが、とりあえず今のところは僕がやります。また何かあればご連絡下さい。
※追記
ブログで紹介したらダイヤモンドの記者さんから連絡がありました。曰く「多くの感情的な電話やメールが何十件も来た。記者人生10年間で初めてだ。」だそうです。また、その中には「こういう不正もある」というような、内部の人間からの報告もあったようです。一部の社会福祉法人達と業界団体の所業が、社会福祉法人全体の、そして現場で頑張っている保育士達の名誉をも汚していることを、知って頂きたいなと思います。
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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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いつもご支援頂き、誠にありがとうございます。
これからもどうぞ宜しくお願い致します。
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まだ学生の身であり、いろんな職種・業界に興味を示し、知識、情報を集めている段階でもありますので、正直全て理解はできませんでした。
ダイヤモンドの記事内容については、家族の一人に保育の職種をしているものがおりますので、以前からちらほら聞いており認識はしておりました。
しかし、金に興味はさらさらなく社会起業を目指しているといくら言っても、何事も貪欲さを持ってできるものが最後にはすべて持っていっちゃうんですよねぇ〜。
まぁ、夢破れるつもりはさらさらないんですけどねぇ〜。
もうご存じかもしれませんが・・・ちょっとした情報提供です。
↓
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091120-00000086-yom-bus_all
なんかよく分からないコメント失礼しました。
益々のご発展、心よりお祈りいたします。
駒崎さんのお考えはよくわかりました。
ただ、私は週刊ダイヤモンドの記事の書き方は納得できません。
確かに、問題提起という側面はあると思いますが、見出しや、POP、文章の導入部分を読むだけでは補助金制度が問題ということは読み取れません。
「保育業界が私腹を肥やしている。」
としか印象を得ません、
マスコミも営利企業ですから売る為によりインパクトのある見出しをつけているのでしょうが、これでは誤った印象を与えることになります(私もその一人でした)。
だからこそ記者の方に抗議がいったのだと思います。
駒崎さんにはより明確に意見の発言をお願いいたします。
確かにダイヤモンドの記事は煽情的な部分はあったかと思います。ただ、あのくらいやらないと耳目をひかなかった、というところもあったのかなと。
内容は結構昔から言われてきた普通のことで、もっと深い闇はまだまだあります。
私も単なる一事業者ですが、当ブログ等で今後も社会問題を発信していけたらと思います。
どうぞ宜しくお願い致します。
私の中で、随分、論点が整理されてきました。まだまだ、不十分ではありますが。
保育所に行くかどうかは、国民の選択、とのご指摘。ここがもう、根本的に異なるところなんですね。
保育所は、積極的選択というよりは、やむを得ず選ばざるを得ない、ノーチョイスのようなものだとの感覚を持っております。
積極的に選択したいのは、私自身が「働く」ことです。
働くことと、子育てをすることが、二者択一にならないように、公的に保障する、一種の社会保障制度として保育所が公立で運営されているのだ、との理解です。
件のダイヤモンドの記事は、全体としては、
「公立保育所=悪。金欲と利権の巣窟」、「私立保育所=社会福祉法人=悪。金欲と利権の巣窟」
との印象を受けるものでした。
解体すべきは、保育制度や、最低基準ではなく、それが事実であるならばとの注釈付ですが、
「社会通念から大きく逸脱する、非常識なまでに高待遇な公立保育所の正規職員の給与体系」であり、
「社会通念から大きく逸脱する、非常識な人事、運営方法がまかり通る、社会福祉法人の事業運営方法そのもの」、
なんだろうと思います。
そのことと、
待機児童をどのように解消するか
は、深く関連することではありますが、一面では、全く別個に切り分けて考える必要もあると考えております。
端的には。
保育所最低基準を維持、むしろ、拡充しつつ、
待機児童を解消する、
にはどうしたらいいだろうか?というのが、自身の命題です。二兎を追って、二兎を得るようなハナシです(^^;;;
心情的には。
保育所を運営する社会福祉法人=悪、
というように、十把一からげにしてほしくない。社会福祉法人にも、その設立の経緯などから、いろいろある。
また、
社会福祉法人 対 その他(株式会社やNPOなど)、
という対立図式にしてほしくない。
というところでしょうか。
蛇足ながら、私のスタンスは、こんな感じです。
最低基準は堅守。
NPO、株式会社などの新規参入は、歓迎。
バウチャー制度も、内容や方法によるが、導入歓迎。
公立保育園の民営化、というよりも、正確には公立保育園の廃止反対。
更についでに付け加えるなら。
感情的ではない冷静な議論を望むと仰る駒崎氏には、
>ただ、あのくらいやらないと耳目をひかなかった、というところもあったのかなと。
とは言ってほしくありませんでした。。。(^^;;;
長々と失礼いたしました。