2009年10月25日

緊急雇用対策に「社会的企業の活用」が盛り込まれた意味


今回のエントリーは「社会事業に携わっている人たち向け」のもので、多少専門的かつ大いに長いので、それ以外の方は読み飛ばして下さい。



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さて、親愛なる同志の皆さん、元気に事業やってますか?
中々会えないのでブログでメッセージの発信です。

表題にもあるとおり、政府が発表した緊急雇用対策に、「社会的企業によって地域雇用を創出する」という文言が織り込まれました。つまり政策化された、ということです。官邸からのダイレクトな政策において「社会的企業」という言葉が使われたのは初めてなのではないかと思います。

●緊急雇用対策
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kinkyukoyou/koyou/honbun.pdf

皆さん、「え、まじで」という感じかと思います。どうしてこんなんなったの?といういきさつは、また今度飲みながら話しましょう。
それは置いておいて、この出来事の意味と、今後我々の運動をどのようにしていくべきなのか、ということの僕の個人的見解をお伝えしたいと思います。

まず、現在のNPO業界の現況から見渡してみましょう。今から10年近く前、阪神淡路大震災によって、日本中から駆けつけるボランティアを象徴とした「民力の台頭」をきっかけに、NPO法が市民団体リーダー達のロビイングによって成立しました。これまで任意団体で運動せざるを得ず、オフィスも金も団体名義で借りられなかった市民団体に、福音としての「ビークル(法的乗り物)」であるNPO法人が出来上がったのです。NPO法人というビークルが出来上がったことで、その周辺政策(協働施策、金融インフラ、民間委託等)もパッケージとして展開されていきました。お陰でNPOは4万近くまでになり、実体はともかくNPOという言葉を知らない社会人はあまりいなくなりました。

今年はNPO法成立から10年の節目。しかし10年前の熱気はどこへやら。NPOが横で繋がれる組織は、名前だけあって実際はない。NPOの経営力をアップさせる、という中間支援団体自体が、行政補助に依存していて経営力がない。「これからNPOは、日本の社会セクターはどうなっていくのだろうか」という、先の見えない状態に置かれているかと思います。もちろん業界全体、なんてものを意識しなくても事業はできるし、そもそも多くの若手社会起業家/事業家はセクター全体のことを意識する必要性すら感じていなかろうと思います。

さて一方NPO業界の変遷の中で、事業型NPOという存在がこの5年くらいで台頭してきました。補助金や寄付だけでなく、ビジネスを行ってサステナブルな運営を可能にさせていく手法を取る団体です。元々言葉ができる前に活動がありはしたのですが、海外では一般的なソーシャル・エンタープライズ/ソーシャル・ベンチャーの意匠を借りて、「社会的企業」、そしてそれを立ち上げる人を「社会起業家」と命名し、認知を図りました。

「社会起業家」なる言葉を日本に初めて紹介したのは経済評論家の町田洋次氏ですが、彼がわざわざこの言葉を唱えてやりたかったことは、既存のNPO的アプローチへのアンチテーゼです。国や自治体に頼らず、もっとダイナミックに地域課題を解決しようぜ、ほら、海外でできてるんだったら、日本でもできるじゃないか、とそういうわけですね。一方彼は「言葉の流通が認識を創る」ということを分かっていました。つまり「社会起業家」という言葉の前には、それっぽい活動をしている人がいても、「名づけられない」ことによって、その人はその人個体としか認識されない。ああ、すごい人がいるね。変わっているね、と。しかしそれが実が「群」になっているんだよ、ということを示し、この「群」に対して注目が集まり、社会的資源が集まるようになります。

例えば、「虐待」という言葉が流通する前に、虐待への電話相談も、虐待対策政策も、ひいては虐待防止の予算も存在し得ないわけです。

ゆえに、運動の最も最初の一歩は、その事業の認識を促す言葉を流通させる、ということになるわけです。町田氏(と一部のアメリカNPOウォッチャーの方々)は意識的にそれが流通するように、メディア等への情報提供を仕掛けていきました。

そのお陰で、数年後僕達は、ただの保育団体の代表だったり、ニート支援団体のリーダーだったり、こども兵防止のアジテイターだったりするだけなのですが、社会起業家、として認知され、社会的資源が集まる、という恩恵に浴したわけでした。

先人達が苦労して、「ビジネスと慈善活動の統合」という世界的な動きを、日本向けにカスタマイズしようとした誰にも知られない努力に、僕は頭を垂れるより他の方法を思いつきません。

ですから「社会起業家」と呼ばないで、という社会事業をやられる方は、そういうのは勝手ですが、決してそのお陰で与えられるもろもろの恩恵を得るべきではないと思います。メディアに載ったり、ありえないくらいの人と会えたり、有力な政治家と繋がれたり、というようなことも、「ムーブメント」という下駄をはかせてもらえているからだ、と、時代が違えば単なる若造でしかない僕は思っています。

さて、そのようにして言説の流通に成功し、人々の認知が少しずつ形成されつつあり、それに伴って一定の世論が形成されるわけですが、では次のステップは何ですか、ということになろうかと思います。

結論から先に申し上げると、僕は「制度化」というところに落とし込むべきだ、と思っています。システムとして社会に組み入れることです。

現在、社会起業家が運営するソーシャルビジネス、というものの数は、実際はたいした数はいません。経産省が55選をやっていましたが、まあその10倍いれば良いんじゃないか、というぐらいでしょう。しかしソーシャルビジネスを実際に「やる人」の重要性は、今後増し続けるかと思います。皆さんも現場で痛いほどよく味わっているように、多様化する社会的課題は膨れ上がる一方で、行政が対応できる範疇を優に超えてしまっているからです。敵は大群で押し寄せてきているのに、こちらは寡兵、という10万のペルシア対300人のスパルタで戦ったテュルモピレーの戦いもびっくりの状況です。

だとしたら、どうすれば「やる人」が増えるのか。もちろん僕達一人一人が魅力的なロールモデルである、ということは大前提です。しかし同時に、制度がそれを後押しする、ということは厳然たる事実です。NPO法人という制度が創られたことで、NPOが4万も生まれでたのですから。

ゆえに、僕はソーシャルビジネスの新たな法人格を創るべきだと思っています。

名前は何でも良いでしょう。名前なんて先ほど申し上げた通り、単なる流通のための道具に過ぎないのだから。とはいえ、ここで例えば「社会的企業法人」としてみましょう。この「社会的企業法人」は寄付控除を受けられ、かつ非配当の株式を有することができる、というのが基本スキームです。

寄付控除が可能になれば、欧米のような寄付市場及び「競争的な社会事業環境」が整備されます。実績出しているところに寄付が集まり、やってないところには集まらない、というある意味の市場原理が寄付にも働く、ということですね。

また、株式を持つことによって、これまで社会性の高い事業をしていた株式会社の乗り換え、新規参入を促進することができます。ひいては将来的にはユヌスの提唱する「ソーシャルビジネスの株式市場」を日本で現出せしめることにも繋がっていきます。

既にして英国ではCIC(コミュニティ利益会社)、韓国では社会的企業法人、が出来上がっていますが、海外の意匠の借りものとしてではなく、日本的なカスタマイズを行い、日本で活動する我々にとって大変有用なものを生み出したいと思います。

このような新たなビークル(乗り物)を打ち立てる、というのがNPO法成立10年を経た今、僕達が仕掛けることなのではないでしょうか。

「その法人格取っても、経営は楽にならないよ」と言う声も容易に想像できます。もちろん法人格は単なる乗り物。儲からないNPOが株式会社に法人格を変えても儲からないのは変わらないよう、経営力と法人格は全く関係しません。
しかし、法人格が作られることによって、周辺政策をそれに付随させられるのです。

社会的企業法人ができることによって、それを支える金融政策(ソーシャルビジネス向け投融資)も可能になりますし、人材育成(大学におけるカリキュラム化)や今回のような雇用創出の受け皿化も大々的に進められていくでしょう。

このようなビジョンを裏打ちする背景として、今回の官邸からの政策実施を眺めてみるとどうでしょう。外需依存の日本は、内需を支える産業が必要。ゆえに介護や保育、その他のソーシャルサービスが、内需を創っていくだろう。そのプレイヤーが必要だ。だから社会的企業が必要だ、という風に動いている、少なくとも分かっている人物が政府内にいる、ということを示唆しているのではないでしょうか。

我々の「社会セクターを拡大し、結果として多くの人を助けたい」という思いと、政府/官邸の思いとが交差しているところに、新たな時代の変化を描ける、と考えるのは楽観的に過ぎるでしょうか。

更に楽観的に妄想するに、そうした「社会的課題を事業的手法によって解決し、人々の不幸を最小化させる」という概念が、あくなき経済的成長を前提にした資本主義の、代替策を提示できるのではなかろうか、と。原丈人さんなら公益資本主義と呼ぶかもしれませんが、名前がどうであれ、次なる資本主義の形を、日本から提示できるのではないか、と考えるのです。

いずれにせよ僕はそうした「変化」を社会事業を行う若手の皆さんと生みだしていきたいと思っています。我々が個々にその専門のフィールドで戦いながらも、歴史的視野に立って、共闘して生み出さねばならないムーブメントもあるのではないか、ということに想いを寄せてもらえれば嬉しいです。それは翻って必ずや個々の専門分野にも反響していき、皆さんの理想の体現に貢献するであろうから。

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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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posted by 駒崎弘樹 at 16:06 | Comment(4) | TrackBack(0) | お仕事で書いた文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いろいろな角度からの分析が必要になってくるでしょう。引き続き議員起業家の立場から注視して行きたい課題ですね。
Posted by handa at 2009年10月25日 23:05
分析、提案、興味深く読みました。今度くわしくお話きかせてください!!
Posted by 吉岡マコ at 2009年10月26日 03:45
>handaさん

ありがとうございます!また色々とアドバイスをお願いします!

>吉岡マコさん

ご無沙汰しております!是非ぜひ今度お話しましょうー。あ、そうそう、弊社の社員がNECでのワーキングマザープログラムに参加させて頂いていて、本当にありがとうございました。良い経験になっているようです!
Posted by 駒崎弘樹 at 2009年10月26日 08:49
大変興味深い観点を分かち合ってくださり、ありがとうございました!
(p.s 社会「企」業ではなく社会「起」業ではないでしょうか?小さい事ですが、ちょっと気になりました。)
Posted by Logsdon at 2010年10月31日 09:58
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