亀井静香氏や福島瑞穂氏が「年収1000万以上の家庭に支給することはない。所得制限をつけましょう」と言っている。
まず上記の主張に対しては、定額給付金の際に明らかになった、所得把握の難しさとそれにかかる膨大な事務コストがあることから、僕は所得制限はつけるべきではない、と考える。
また、「2万6000円がアルコール依存症の親父の手に渡って、酒代に消えたら子育て支援にならないのでは」という巷の批判的なご意見がある。
僕は、「そういう事例はあるかも知れないが、全体のパーセンテージから比べると決して高くはないので、現金給付すべし」と思う。
そんなわけで個人的には「所得制限なし、現金給付」派なのだけれども、バウチャー化することの効能もあると思っている。
その前にバウチャーというのは何か、と言うと「使途特定のお金」で、一種のクーポン券のようなもの。クーポンのように紙でも良いし、マイレージのように電子化しても良い。いずれにせよ、使途が特定されたお金で、アメリカのフードスタンプが最も有名。低所得者層にフードスタンプという電子カードが配られ、日用雑貨品店でお金の代わりに使える。低所得者層の方々の飢餓を防げるし、現金給付した際に懸念されるドラッグ等の反社会的な用途で使われることもない。
ではこども手当をバウチャー化することで何が生まれるか。一言で言うと「保育社会主義を脱する機会」であり「保育分野における成長戦略」である。
詳しく説明すると、こうなる。まずこども手当は「子育て支援サービスのみで使えるバウチャー」として配布される。(個人的には紙ではなく、スイカ等のICカードでやった方が良いと思う。)
こども手当カードは、保育園、幼稚園、ベビーシッター、親のカウンセリング、ベビー用品等、学習塾、給食費、習い事や学校の授業・教材料等などに使える。
子育て支援サービスでしか使えないので、パチンコやアルコール等で消費されることはない。
ここだけで終わると、現金の方が事務手続きやICカードの設備投資も必要ないので、よっぽど効率的だ。ただ、この先がポイントである。
このこども手当に加えて、現在保育園に出ている「施設補助」の大部分を撤廃し、受益者の親御さんに直接補助する「保育園手当」として改変、振り分けをするのだ。
例えば、保育所に年間3000万円、ひと月に直すと250万円の補助が出ているとする(認証保育所レベル)。定員が30人だとしたら、250万を30人で割って、こども1人当たり8万円ちょっとの補助金(税金)が投入されている計算になる。これを、保育園ではなく、保育園を使う親に直接8万円の保育園手当として配布する。
同じことじゃないか?と言われるかもしれないけれど、これで待機児童問題は大きな改善を見せる。
何故か。現在保育園をどこに設置するか、というのは自治体にゆだねられている。自治体は地域バランスを考え、ブロックごとに保育園を作ろうとする。しかし、ブロックごとに均等に子育て人口がいればそれは正しいが、実際はブロックごとにニーズには偏りがあり、あるブロックでは定員以下になり、あるブロックでは定員以上となる、というような偏りが生じてしまう。住民の不満の声に応じて、保育園が足りない所に自治体は保育所を出そうとするが、年ごとにニーズは細かく変化していく。マンションが建設されたらニーズは局地的に増えるし、こどもの年齢分布は毎年変わるので急に年長クラスのニーズがなくなることもある。
もし自治体(あるいは政府)が何かの方法でその地域のニーズを完璧に把握できたとしたら、自治体が保育園を出していく方法で間違いはないだろう。しかし、ソビエト統制経済の例(ソビエト官僚が全てのニーズを把握して統制的に供給を作ろうとした)を持ちだすまでもなく、それは不可能である。
だとするならば、どうすれば良いかと言うと、「事業者に任せろ」ということである。例えば保育園会社であるA社が、この地域で多くの人が困っている、と判断したとする。A社は地域の親御さんたちにヒアリングをし、十分ニーズがあると判断し、採算が取れることを確信する。自治体ごとに定められた安全保育基準に基づき保育園の物件を改装し、保育園をオープンする。
地域の親御さんたちは保育園手当をもらっている。(手当は低所得層ほど多い逆累進性があると更に良いだろう。)その手当に自費を加えて、A社の保育園に保育料を支払う、という仕組みにすれば良い。
(これに加えて初期改装費の補助制度を拡充させれば)保育園への参入がしやすくなり、園の数が増える。また、民間保育ママ等のオルタナティブな手法が盛んになり、補完産業も形成されていく。北欧のように親たちで作る保育園、というようなことも可能になる。
現在の保育社会主義では、自治体が保育園をブロックごとに作り、親は自治体に申込み、自治体が独自の基準で判断し、保育園を振り分ける。保育園を出したいA社は自治体が「ここに作りたいので、業者の皆さんどうですか」という公募に応募し、自治体の基準(多くの場合、実績があるかどうか。これによって実績があるところが更に実績を積む、という二極化が生まれる。)をクリアして、開園。しかしニーズがあるかどうかは分からないので、定員割れの可能性もある。しかし事業者としては保育園への補助があるので、園児が少なくなっても補助で食い繋げる。ある意味保育園にとってはやりやすい仕組み。
話を戻すと、こども手当のバウチャーカードに保育手当を上乗せすると、既存の保育社会主義が突き崩され、待機児童問題の解決に繋がっていく。待機児童問題は日本の労働力の拡充を阻害し、競争力を毀損しているので、それを解決することは立派な成長戦略へと繋がっていく。
更に高校無料化も、「教育バウチャー」をICカードに乗っけると、学校間で自分たちの教育の特色を出し、生徒たちを引き付けようという競争が始まるので、よりダイナミックな教育市場を形成することができる。
このような戦略を描くのならば、こども手当のバウチャー化は有効だろう。ただ、上記の改革は幾つかの理由で実現には極めて大きな政治力が必要になる。
1.保育園事業者(特に既得権益な社会福祉法人)からの大反対。これまで、認可保育園だったら園児がいなくても成り立っていたのに、成り立たなくなるのは事業存続に関わる。生死を賭けて反対運動を行うことが予想される。
2.親からの大反対。保育園手当がもらえるのは賛成だけど、自分の子どもが行っていた園が潰れる、ということも一部地方に出始めることから。(その分、新たに生まれる保育園が多くなって救済されたりするけれど、潰れる心理的インパクトの方が大きいため)
3.厚労省(と自治体)からの大反対。仕事がなくなる、ということは権益がなくなる、ということ。行政の習性として自分たちがコントロールできないことが増える、というのは基本的に反対。
4.この改革を行っても誰からも感謝されない(=目先のメリットがない)。社会福祉の中長期的な財源の問題を考えると、無尽蔵に保育予算を増やせないから、いつか改革は必要。とはいえ、有権者たる親たちに不人気の政策を行えば票に繋がっていかない。というわけで、何も自分が火中の栗を拾う必要はない、ということで先延ばしのインセンティブが生まれる。子どもや孫の世代が何とかしてくれるだろう、と。
というわけで、成長戦略につなげていくのなら、保育市場改革を見通した上でのバウチャー化。(とそれに伴う所得の把握等を容易にする国民背番号制度の構築。)
それが無理なら所得制限なしの現金給付、という線が個人的にはお勧めです。
●付録:民主党議員の方へのまとめ
1.待機児童問題の犯人は、保育社会主義です。
2.保育社会主義の打破には、補助金の間接給付から利用者への直接給付が鍵です。
3.それと同時に無意味な保育園の設置基準を緩和することです。(園庭、給食、人数基準等)
4.参入促進のため、施設の改装費・敷金/礼金に関しては、今よりも補助(補助+低利子融資)を充実させるべきです
5.保育市場のビジョンとして、巨大な株式会社が寡占する図(コムスンモデル)ではなく、NPOや親立のミニ保育園、民間保育ママなど、自律的で創意工夫にあふれた多様な事業者が生き生きと事業を行っている、という図です。
6.ひとり親や障がい児を持つ家庭等、子育ての負担が高い世帯に対しては保育手当を上積みする等の再配分施策を行い、幼年期でスタートラインが違う格差の是正が必要です。
7.待機児童問題を解消し、内需型の保育・子育て支援産業を成立させることが、日本経済の成長戦略にも繋がっていきます。
8.こどもや働く親に税金を使うことは、「きりのない福祉」ではなく、リターンの非常に高い「未来への投資」です。
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