こどもレスキュー隊員向けのコンテンツで新しくダイアローグ研修というものを実施している。
これはゼロックスの修理工のエピソードから、現場でのノウハウの共有を、レクチャーではなく、保育者自らの保育経験をストーリーベースで語りあうというメソッドだ。
ダイアローグ研修の講師は僕自身でやっているのだけれど、非常に勉強になるストーリーが聞けて、携わるのが楽しみだ。
例えば、ある隊員からは「笑顔スイッチ」の話が聞けた。病児保育は毎回現場が変わる。常に同じこどもを保育するのと違い、毎回手探りでその子の喜ぶポイントを、短時間のうちに探り当てなくてはいけない。
それを「笑顔スイッチを探す」というメタファーで、表現している人がいた。絵本が好きかな、おもちゃかな、手遊びかな、歌かな、と喜んでくれるものを探し出し、笑顔スイッチを見つけられた時に、「よしっ」となるわけだ。
「笑顔スイッチ」を見つけられ、その子の好きな遊びを展開していく。しかし子どもは飽きっぽい。次の遊びにスムーズに移行しないといけないし、あるいは子どもが熱中する遊びを、子ども自身に見つけてもらい、楽しい時間を創っていってもらう。
フローレンスの病児保育は看病であると同時に、いかに感動を与えられるか、を追及している。こどもが熱を出して辛い状況であっても
「でも楽しかった」
「またあの人に会いたい」
「自分は愛されている」
と感じられるような、リラックスして、そして楽しくてワクワクする保育だ。
隊員ひとりひとりが、そういう保育を目指し、日々現場で頑張っている。
隊員の中でこういうことを嬉しそうに言っている人もいた。
「何日か連続でお預かりさせて頂いたのですが、お母さんがこどもの楽しそうな様子を大変喜んで下さって、帰りにお花を買って来て、プレゼントして下さったんです。」
親御さんは預ける時と迎えに来る時しかこどもの様子を見れないけれど、こどもがどういう時間を過ごしたか、はその後の子どもの様子で伝わるものだ。
こどもレスキュー隊員が感動の病児保育を行うことで、親御さんにもその感動が届いたのだろう。この親御さんもまた素晴らしく、隊員の方が感動を受け取る、という循環が生まれていた。
僕が何故この「感動の病児保育」を、これまでの医療的アプローチの色合いが濃かった病児保育に対し、明確に提起しているかというと、小さい頃の原体験に基づいている。
東京江東区の下町に生まれた僕は、お隣の墨田区の歯医者に行かされていた。通常、こどもにとって歯医者と言うのは、地獄の別名だ。できれば生きているうちに傍に近寄りたくない場所である。
しかし、僕はその歯医者さんに行くのが楽しみでしょうがなかった。
なぜならその歯医者さんが、手品師だったからだ。
先生は小さな僕が部屋に入ると、少しかがんで、赤いピンポン玉みたいなものを掌に載せる。その球を両手でこねて、どちらかの手に入れて、げんこつを二つ差し出す。
「どっちだい?弘樹君?」
僕はどちらかの手を指さす。赤いピンポン玉が入っていそうな手の膨らみだ。
先生はゆっくりその手を開ける。ない。何も入っていない。
急いで僕はもう片方の手を指差す。じゃあこっち!
先生はまたゆっくりと残りの手を開く。そこにも何もない。
そう、ピンポン玉はどこかに消えてしまったのだ。
小さい僕は眼を丸くして驚く。「なんでなんで!?先生、なんで??」
先生は笑って僕に尋ねる。「何でか知りたい?」
僕はブンブンと顔を振る。どうしてそんな不思議なことができるのか。
「分かった。じゃあ歯を触った後に、もう一回見せてあげよう。今度はもっとゆっくりやろうじゃないか。」
歯をいじられながら、僕は考える。どうやってやっているんだろう?確かにあそこにあったはずなのに・・・。あっと言う間に治療は終わり、僕はうがいもそこそこに、やってやってとねだる。先生はさっきと同じ魔法を、さっきよりもゆっくり、ちょっと大げさにやってくれる。でもさっきと同じ、ピンポン玉はどこかに消えてなくなってしまう。
「またおいで。今度は眼を離すなよ」
先生は笑って手を振る。
あれから25年。僕は今でもあのピンポン玉の鮮やかな赤を思い出せる。
あの楽しい魔法の歯医者のお陰で、歯医者自体は嫌いにはならなく、今でも定期的に歯の検診と掃除は欠かしていない。医者や病院もアレルギーなく行けるし、ひいては自分の健康を維持することにも抵抗なく、むしろ楽しんで取り組めている。
多分あの手品師先生のお陰だろう。先生とあの不思議な空間は僕の心のどこかに今も住んでいて、楽しかった下町の思い出、たくさんの大人に愛された実感として僕の人格の基盤を形成している。僕という人間の部品の一つであり、木にとっての陽光や水のようなものだったのだろう。
おそらく今こどもレスキュー隊員達が、病児保育を通じて子どもたちに与えるものも、そういうものであるのだろうし、これからもあってほしい。
「熱を出して大変だったけど、あの素敵な人が来てくれてとっても嬉しかった。」
「風邪をひくと、あの楽しいお話が聞けて、ちょっぴり楽しみだった。」
「調子が悪いと家族も優しく、近所のおばちゃんも駆けつけてくれて、皆に愛されていて幸せだった。」
そういう思いを子どもたちが持てるように。そういう思いに包まれて、子どもたちが育てるように。降り注ぐ陽光のように、潤いをもたらす水のように、小さな芽に与えることができたら。
日々感動の病児保育に携わってくれるこどもレスキュー隊員と、それを支える本部スタッフ達に大きな感謝を。
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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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