元人事コンサルで、弊社の「働き方革命」事業部の宮崎さんから勧められた本が、すごく良かった。
色々良いところはあったのだけど、時間がないので印象に残ったメソッドを一つだけ紹介。
ノウハウの共有というトピックで、ゼロックスのコピー機修理工達がどのようにして修理技術を共有しているのか、という研究をジュリアン・オールという文化人類学者がやった話。
普通だったら、マニュアルとか研修で技術の伝達が行われるはず。そう思っていたら、あらびっくり。彼らにはオフィシャルな研修は役に立っていない、ということが分かる。ではどうやって学んでいるのか。
通常彼らは各自のクライアントの会社先で修理を行っているのだが、定期的に会社に出社し、ミーティングを行っている。そのミーティングの際に、彼らは自分の経験した仕事のエピソードを「War Story=こんなスゴイ修理をしたという武勇伝」として披露するのだという。
「経験をエピソディックに語る」。
対話を通じて知識共有がなされた、ということ。
これがなぜ驚きかというならば、通常、知識は汎用性を高めて、ロジカルに伝えるのが教科書的には正しいとされるわけで。(一般的にはこうです、という風に。)
しかし非常に個別具体的な事例を、ロジックではなくストーリーとして伝えられていても、いや、ストーリーとして伝えられていたからこそ、彼らにしっかりと腹落ちしていた。
更にもう一つ観察された重要な点。それは修理工達が自分たちが語り合った経験の詳細を覚えているわけではなかった、ということ。
じゃあ、なんで修理できるのさ、ということになるのだけども、答えは「彼らがそれぞれ分散して知識を持っていて、必要な時に電話して分かる人間と相談しながら修理した」のである。
まさにSalomonの「分かちもたれた知能 Distributed Inteligence」。
1人の個人に全ての知識があるべきで、そのために技能を習得させていくというモデルではなく、ヒューマン・ネットワーク自体に分散的に知識が存在し、集合知が形成される、というモデル。
考えてみたらビジネスにおいてあらゆるケースを記述して、それを一から覚えさせる、というのはほぼ不可能だ。ネットワーク全体に経験のレパートリーが分散、成長しつつ、それをいつでも呼び出せる関係性が構築されていることで、個が機能する、ということ。
これをもってして、ジョン・シーリー・ブラウンは「我々が必要とするのは、実践コミュニティだ」と言っているが、けだしその通りであろう。
ここからの学びは、フローレンスでも生かせる。保育スタッフ向け研修において、これまでの知識伝達型の研修と共に、「エピソディックに経験を語る」場をもっと構築するべし、ということ。
そして、よくある「NPO経営ノウハウ研修」とかで講師の先生の話聞く、っていうのが何だか違和感を持っちゃうのは、こういうことか、と。
それよりは実践者が集まってエピソードを対話し合う場の方が、よっぽど勉強になるよね、というのは理論にも裏付けられていたのだった、と。
それと、自分がやっているワークライフバランス研修で、理解はしてもらえるが、腹落ちまで届かない、っていう時があるけれど、まあそういうことなんだな、と深く反省。
何にせよ勉強になりました。研修、作りなおそっと。
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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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「武勇伝」を話し合ってる場、というのがあるけれど、それは話を聞くことで心理的負荷をお互いにとっている程度だと思ってました。実際の調査で、「チームとしての知を高めることに貢献している」という結果があるということ、研究者や著者の目の付けどころに感服します。
どんな研究もどこかの段階のパラダイムの「仮説」が元なわけだから、パラダイムが変わると「仮説」が変わる、研究の結果を見直さなければならないんだね。この場合、旧パラダイムが「個人の学習」、新パラダイムが「組織の学習」。
朝から感動しました。尊敬する読書家に感謝。
ありがとうございます。面白いですよねー。研修とか仕事にしているので、色々と知った気になっていた蒙が開かれました。