アメリカの大学生の「理想の就職先」ランキングでグーグルやP&Gと共に10位以内に入るNPOがある。このティーチ・フォー・アメリカだ。
アメリカでは、世界中の若者を引き付ける大学がある一方で、日本の学級崩壊など及びもつかないくらいのレベルの腐った公立中学校がうじゃうじゃある。アメリカの公立学校の運営財源は地域の固定資産税でまかなわれるため、地域の経済状況をもろに受け、財源不足の地域は劣悪な教育環境になっていくからである。
この状況でひとりの21歳の女子大生が立ちあがった。自らは名門プリンストン大学で学ぶエリート。劣悪な教育環境で学んだことは一度もない、非当事者だ。
彼女がある日思いつく。「全米のエリート大学の学生が卒業後投資会社やコンサルタント会社に何か行かずに、2年間劣悪な公立学校で教えれば、アメリカの教育を変えられる」と。
モチベーションと能力が際立って高い新卒教師が、まったくやる気のない教師と生徒のいる学校に赴任する。熱血エリートが大車輪で働いているのを見て、諦めてしまっていた先生や生徒、親達もモチベーションに感染していく。
一方熱血エリートたちの大部分は、「社会のために働きたい」と思ってはいても、特に何が特別にやりたい、という人たちではない。(ここらへんは日本の大学生にも共通だ。)新卒で教育業界に足を突っ込んだことがきっかけで、教育に関わるキャリアを歩み始める。校長、教育コンサルタント、低所得者層のために戦う弁護士、判事、政治家、等など。
ティーチ・フォー・アメリカ出身の人間が高校を設立し、目覚ましい成果を上げる。オバマ政権の教育審議会のトップに就任した人間もいる。
一つのNPOが国全体の教育を揺るがし、変革を起こしている様を見てとれるだろう。
しかしこうした成功物語を本書に期待すると、良い意味で裏切られるだろう。本書の大部分を割いて語られていること。それが「金策」についてだ。
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P135
月を追うごとに、状況はひどくなっていった。私の時間はすべて、2週間ごとに賃金を支払うための20万ドルの調達に向けられた。
それは奇妙な状況だった。私はニューヨークで、毎朝目を覚ましては、必要な資金を調達できないのではとおびえている。一方で、1000人のティーチ・フォー・アメリカのコープ・メンバーが指導に取り組んでいる。毎日毎日、彼らは私達が派遣した13の地域のどこかで働いている。テキサス州のリオグランデやオークランドやボルチモアで、彼らは子どもたちの可能性を引き出そうと奮闘している。彼らは心をこめて教え、ティーチ・フォー・アメリカのミッションを体現している。ティーチ・フォー・アメリカがいまにも破綻しそうだとは気づかずに。
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NPOの経営者であれば、こうした部分に関しては読みながら痛みすら感じるだろう。誰しも同様の経験をし、二度としたくないと思いながら、何度もせざるを得ない、この状況。社会起業家だなんだと言われても、まったく格好良くないこうした姿。人様に、銀行に、財団に頭を下げて金を頼む。
そして賃金を何とか工面する。けれど自分はお金のことで忙しすぎて賃金を払ったメンバーたちとは中々コミュニケーションが取れない。彼らは賃金をもらいながらもリーダーが自分たちをねぎらわないと反抗的な態度を取る。やりきれない気持ちになりながらも、また金策に走り回る・・・。
これがNPO経営の実相だ。全く派手でもなく、感動的でもない。やっている奴にしか分からない、あれだ。だからこそ、こうしたどうしようもない経営の日常を憶することなく語っているからこそ、僕は深い感動を覚えた。
金策だけではない。僕たちがやりがちな「本業が堅く回ってもいないのに始める新規事業」での失敗についても、非常に痛い経験を筆者は披瀝する。
まるで自分の姿を見るように、本書を読みながら、この本はNPO経営の教科書であると強く思う。僕たちがはまりがちな様々な穴を、見たくないような状況を見せてくれる。
ジョン・ウッドが「マイクロソフトで見つからなかった天職」で「書かなかった」ことが本書にある。まちがいなくジョン・ウッドの方が素人受けは良いが、NPO経営者にとってどっちが勉強になるかといったら、本書であると断言しよう。
社会起業家に憧れを持つ若い人たちには、読んでもらいたい。本書を読んで萎えたら、おそらくソーシャルビジネスなんて始めない方が良い。
現実は本書で描かれた失敗の数々の10倍みじめだ。
しかし21歳の女子大生が無様に転びながら全米で尊敬される教育NPOを立ち上げていく様は、みじめで地味な日々がそこに描かれているからこそ、何より真実味を持って感動的なのだ。
そして「いつか全ての子どもたちに良質な教育が与えられるように」。
これが夢ではなく、達成可能なビジョンとして浮き上がってくることを、我々は感じられよう。
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